入学式

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4月。慣れてきた高校生活も気がつけば1年が過ぎていた。 乾いたコンクリートに流れていく雪解け水、公園の桜の蕾、日に日に早くなる日の出の時刻。そのどれもが毎年経験しているもので、この北海道の街に16年過ごした今となれば、珍しいものや初めてのものは何一つ存在しない。 そして今日は、私の通う山花高校の入学式である。 高校2年生となる私にとっては、入学式など関係ないに等しい行事ではある。が、同時に行われるクラス替えは、重大な行事である。 この一年間築き上げてきた友人関係が、このクラス替えによって崩壊するかもしれないのだ。 友人関係なんて儚いものかもしれない。所詮私が築き上げてきた友情なんて、クラス替えなんていうちっぽけなもので崩れてしまうものなんだ、と馬鹿にされるかもしれない。だが、そんなことは私にとってはなんてことない。――もうあの日のようなことを繰り返したくない。だから、今日のクラス替えで、何としてでも友達と離れるわけにはいかないのだ。 「おはよう、小紅。進級早々元気ないけど、大丈夫なわけ?」 後ろからポンと肩を叩かれる。振り向くと、唯一の友人である長橋綾が立っていた。 「お、おはよう、綾!私、絶対に綾と離れたくないよ!!」 綾の顔を見ると、途端に涙目になる。もしかしたら、こうしてやり取りするのも今日が最後になるかもしれない。 「ちょっと。そんな泣かなくてもいいでしょー?また新しいクラスで友達なんてすぐ作れるしょ。」 朝っぱらからめんどくさー。とでも言わんばかりのしかめっ面をしながら、綾はそう言った。 クラス離れてもずっと一緒!ではなくて、新しいクラスで友達作れよ。だなんて。やっぱり、クラスが違ったら友達じゃなくなっちゃうのかな。 綾の言葉を聞いて、私は肩を落とす。 良く考えたら、綾は私と違ってスタイルもいいし、オシャレだし明るいし、スポーツも勉強もなんでもできた。 そんな綾に仲良くしてもらおうと努力して、私も無理してオシャレとか化粧とかして、言葉遣いとかも変えてきたし、本当の自分を見失ってたような気がする。 だったら、綾と離れたら、昔の自分に戻れるかもしれない。気楽な自分になれるのかもしれない。ありのままの自分でいられたら、どれだけ毎日が楽しいんだろう。 努力しても報われなかった。どれだけ頑張っても、綾は綾より劣る私を見て、金魚の糞程度にしか思ってなかったのかもしれない。
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