入学式

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クラスの名簿の前には、沢山の生徒で溢れていた。 「1組から見ていこうか。」 「はいよー。」 人混みを掻き分けながら、1組の名簿から自分の名前と綾の名前を探し出す。 「佐藤、佐藤…。あ、あった!」 名前を順番に追っていくと、「佐藤 小紅」という自分の名前がしっかりと掲載されていた。 でも、私の問題は、クラスがどこかではない。誰が同じクラスか、だ。 一文字一文字を慎重に見ていく。果たして、「長橋 綾」という名前は1組の名簿にあるのか…。 だが、最後までその名前はなかった。 ふっと肩の力が抜ける。これを望んでいたはずだが、やっぱりクラスに友達がいなくなるというのは、緊張する。頑張れるか心配ではある。 すると、遠くから女子の呼ぶ声が聞こえた。 「綾ー。あんた6組だわ。こっちだよー。」 ふと声のする方を見ると、綾を呼んでいたのは、モデルのようなスラッとした体型のギャルだった。 あぁ、やっぱり綾にはああいう子がお似合いだな。私には程遠い世界の子だったんだ。 「あら~離れたね。まあせいぜい頑張ってね。クラス替え楽しみになったんでしょ?じゃ。」 そう言ったあと、綾を呼んでいたこの方へ歩いていった。 いつものテンションのはずなのに。いつも通りのはずなのに。今日はやけに口調が冷たく感じて、寂しくなった。 「なんだよ。もうちょっと別れを惜しんだってさぁ…。」 離れていく背中を見つめる。さっきまでずっと一緒にいたはずなのに。もう遠い世界の人間に見える。 綾は私の知らないところで別の友達がいて、私は綾にとって、大勢いる中の友達の一人にすぎない。もしかしたら、友達とも思ってもらえてなかったのかもしれない。 悔しいな。私、綾のこと、まだ全然知らない。何も知らない。一緒にいることが精一杯で、綾と本気で仲良くなろうとしなかったんだ。だからこうなる。自分の事を知ろうとしない人の事を知ろうとしないなんて当然かもしれない。しかも、私みたいな奴になら尚更。 友達っていうのは、想像以上に難しいものだ。お互いの信頼関係が余程強くなければ、決して分り合うことのできないもので、分かり合えなければ、簡単に忘れられていく。そういうものだ。 ぐっと手を握り締める。私に、友達ができるだろうか。
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