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『痛い、痛いってば!離してよ!』
彼女が俺に抗議する。
『絵美、お前、結婚してたって本当か?』
少々いらついていた俺は、彼女…絵美をにらんだ。
『あら、ばれた?』
絵美は悪びれる様子もなく、悪戯っぽく笑う。
『冗談じゃねえよ、まったく。』
俺は探偵事務所で働いている神山結弦。二十六歳。探偵としての経験値もそれなりに上がってきている…つもりだった。
問題が起きたのは、昨日の午後。
『妻の身辺調査をお願いしたいのですが…』
細めで背が高く眼鏡をかけたサラリーマン風の男性がうちの事務所にきた。対応したのはうちの所長。俺は、仕事をしている振りして聞き耳を立てていた。
依頼者は約1時間くらいで帰って行った。思い詰めたような後ろ姿だった。
依頼の話をまとめると、最近、奥さんが、日中、家にいないことが多く、それに加えて急にオシャレになり、旦那である自分がなんか独身女性と住んでいる不思議な感覚におちいっているという。若いのに夫婦生活もなくなり、会話も少なくなってきたとか。少し前までは、毎日、奥さんの笑顔とおしゃべりが楽しくて幸せを感じていたのだと言っていた。何故、奥さんの様子が変わったのか、何故、自分に愛情を向けてくれないのか不思議でならないという。
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