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依頼者の男性が帰ったあと、俺は所長のそばに行き、
『これが奥さんの写真?』
手にとって見た俺は息が一瞬止まった。
『所長…この人が依頼者の奥さん…です…か?』
俺の様子を見て、所長は何かを感じたらしい。
『君の知っている人かい?』
『知っていると言うか…何というか…あの…』
言った方がいいのかどうか、俺は悩んでいた。
『まあ、座りたまえ』
所長は立ち上がり、俺の肩に優しく手をかけてソファーへ座るようにと促す。なんか嫌な予感がする。
『…で、この方と君は、どういう関係かね?』
所長の優しすぎる尋問が始まった。
『え~っと…。なんといいましょうか…ん~…』
俺は言葉に詰まる。悩んだふりもしてみる。すると所長は、静かに、しかし、否を言わせない口調で
『教えてくれないかなぁ。君の知っていることを全て。これは、依頼者にとっても、我々にとっても、とても重要な情報だと思うのだが。そうだろう、結弦君。』
困った。本当に困った。困ったけど、直ぐに解ることだろうから、言うしかない。
俺は、大きく深呼吸をしてから告げた。
『この女性は、今の俺の彼女です。』
『ほう。君が当事者か。』
所長のつぶらな瞳が光ったような気がするのは俺の気のせいだろうか。
『なるほど。この依頼は君に担当してもらった方が、早く解決しそうだ。』
所長は静かに言った。
『えっ、俺?』
ソファーに深く座り天井を仰ぎため息を吐き出した。
『参ったなぁ。どうしたら…。』
事務所の中で、俺の呟きに応える人は誰もいなかった。
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