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そして次の日。
絵美と言い合いながら、とりあえず話をしようと近くの茶店に入った。
『何故、俺の誘いに乗ったんだよ。旦那がいるのに。』
『私、そんなに重くは考えていなかったわ。声かけられたのが嬉しかったの。結弦と過ごす時間がとても楽しかったし、とても幸せだった。最近は、結弦と逢えることが楽しみで。確かに、旦那のこと、考えること無くなってたわ。』
彼女は不安を浮かべた表情で俺に尋ねた。
『私、悪いことしてたの?』
えっ?俺に聞く?
確かに、絵美に声をかけたのは俺だけど。
『私のこと、嫌になった?』
いや、そういうことじゃなくて…。
『旦那が昨日、うちの事務所に来たんだ。だいぶ悩んでいたぞ。最近、絵美が自分を見ていないって。』
『そうなんだぁ。』
絵美は少し考え込んでいたが、俺を見つめて、
『だって、私、結弦しか見えていないもの。』
彼女はそう言って俺に微笑んだ。
…可愛い。抱きしめたいくらい可愛い。
でも、待つんだ俺。俺は、旦那に絵美を返さなきゃいけないんだ。あんな真面目そうで、絵美を心底愛している旦那に。
『絵美、よく聞くんだ。俺たちはこのままつき合っていてはダメだ。もう、逢ってはいけないんだ。』
絵美の表情が変わっていく。
『結弦は私が嫌い?』
そんなわけ無いだろう。そう言って絵美を抱きしめたい。でも…
『絵美は俺にはもったいないくらい、いい女だ。嫌いになる理由はない。でも、終わりにしなきゃいけない。絵美のために。』
俺は自分の中に渦巻いている感情を何とか押し殺し、冷静な声で彼女を説得した。
『俺のことは忘れてくれ。ごめん。』
俺は頭を下げた。悪いのは俺だからな。
彼女はしばらくの間、うつむいていたが、
『わかった。ごめんね、迷惑かけて。』
泣きながら彼女は俺に微笑んだ。
そんな顔されたら、俺でなくても大概の男は何も言えなくなる。正直、辛い。
『旦那への報告は、絵美が友人と遊んでいただけで、何も、悩むことは無いと報告しておくよ。』
彼女の顔を直視出来ない俺は、視線をそらしながら話した。
『ありがとう。』
彼女の小さい声が聞こえた。
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