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「ほら、ここ!鍵が開いてる!」
マナは強引に蔵の戸口まで私を引き摺って来た。
参道の裏手のそこまで、夜店の照明も届かない。
銀杏の木に括りつけられた提灯が、ぼーっと灯って戸口にぼんやりと私達の影を落とすだけ。
お祭りのざわめきが聞こえては来るけれど、耳に水が入った時のような違和感が付きまとっていて、点きっぱなしのテレビの音みたいな気がする。
マナに「開けて」と言われ、カタッと小さな音を立てて戸を開けた。
「来て!」と小さな声に、でも強く逆らえないような声に従う。
先を行くマナの後を、泣きそうになりながらついて行く。
蔵の灯りは電球が一つ。
大きな箱が、一部分だけ照らされて、並んでいる。
「ね、ねえマナ…怖いよ、帰ろ?
噂なんて、嘘だよ。何にもないよ」
「レナ、ほら。開けて見て。
……ああ、これは節分の時の衣装とお面だ、こっちは……」
「マナ……ねえ、マナ……?」
「あった……みつけた……」
「私を襲おうとして、反対にカラカラになるまで生気を吸われちゃったあの男の残骸……
嗤っちゃうよね、ここの新しい宮司さん、金儲けしか頭にないんだから。
きっとほとぼりが冷めた頃に河童だとかなんとか言って、拝観料を取るつもりなんだよ?
いくら干からびてミイラみたいになってるからって……」
「マ、マナ……?」
生気を吸われた?
あの黒い染み……?
「レナ……お守り見つかった?」
声も出せずただ首を振るだけの私。
「お祖母ちゃんが『肌身離さず持ってるんだよ』って言ってたのにね。
レナは憑かれやすいから……」
マナが……
マナだった筈のぼーっと白く光っていた輪郭が、だんだん暗く、穴が開いたような黒い闇に溶けていく。
恐怖で足が竦む。
こ、ここにいちゃダメ
逃げなきゃ……
逃げ……
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