84人が本棚に入れています
本棚に追加
昼飯を食べ終わると、次に眠気が俺を襲う。
左隣の、まだのほほんと飯を食っている男の存在を空気で感じながらも、俺はゆっくり目を閉じた。
今日はいつもより風がない。
ザワザワと鳴る枝も、今日は流れることができず泳げないでいる。
ここはまだ涼しいけれど、それでもじわじわと熱気が肌に食い込む。
そういや、隣のこいつは暑くねぇのかな。
俺とは違って暑がりではないみたいだったけど。
にしても、今日は一段に蒸し暑いな。
蝉の声が上から響くのが少し不快で、眉間に眉を寄せた。
立ち込める夏の匂いがまとわりつき、暑いながらも眠気は深くなる。
ああ、くらくらする。
この夏の匂いも、温度も。
全てが熱くて、頭の思考は鈍る一方だ。
鳴っていないはずの葉擦れの音が、耳の奥でザワザワと騒ぐ。
この熱、どっから来るんだろう。
風、吹かねぇかな。
あ、れ。
異変を感じてばっと瞼を開くと、目の前には静かな男の顔があった。
いつものにこにこした笑顔も、おちゃらけたしかめっ面もそこにはない。
ただ、その瞳は静かに熱が渦巻いていた。
「あつい、ね。」
ゆっくり、男が俺に手を伸ばす。
何故か俺の手はその腕を払いのけようとはせず、彼を受け入れた。
やめろ、と脳が指令を出してあるのにも関わらず、俺は彼と同じようにその整った顔に手を伸ばした。
うん。
あつい。
あつくて、くらくらして、頭がおかしい。
綺麗だな、なんて。
耳の奥で鳴っていたザワザワが、さらに強くなった。
それにつれて体の温度が、上がる。
俺はまだ違和感の残った自分の唇に手をあてながら口を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!