あおって世界に何色あるんだろうね

2/27
前へ
/30ページ
次へ
ある小説家がこう言った。 『 人生は一箱のマッチに似ている。 重大に扱うのは馬鹿馬鹿しい。 だが、重大に扱わなければ危険である。』 その作家は大正から昭和にかけて文学を産んだ男らしい。 その言葉は、現国の教科書の、隅の方にぽそりと書かれてあった。 人は日常に依存しやすい。と思う。 平穏な日々をつまらないと思いながらも、実際にその平和な毎日が崩れると、親を無くした子鹿のように唖然と立ち止まる。 かく言う俺も、その一人だろう。 毎日毎日が面白く、つまらない。 けれどこれが崩れるのが、怖い。 そもそも人間てのは、つくづく勝手なイキモノだ。 大人も子供もみんな、矛盾だらけで生きている。 動物みたいに、本能だけでは生活できない。 心の中の真逆なことを口にしたり、やりたくもない仕事をせっせとこなす。 そうして、時間がぽつぽつと波紋を作る。 それに、人は知らず知らずのうちに飲み込まれ、気がついたときにはもう手遅れ。 音もなく、溺れ死ぬだけだ。 と、俺はそう思う。 17年間生きてきて、そう思った。 暑い7月の下旬。 教師のダルそうな声とチョークの折れる音、シャーペンのノック、咳払い、パラパラと紙をくる乾いた耳障り。 こんな日の国語の授業はつまらない。 『この文はいったいどういう意味をあらわしているか。40文字以内で説明しなさい。』 そんな問題を見るたびに、はぁとため息が出てしまう。 (何を思って書かれたとか、どんな意味でこう表現したとか、そんなの作者である奴らにしかわからないだろ。) たった40文字で、その作者の感情を言いまとめるなんて、一種のエゴなんじゃねぇの。 ああ、イライラする。 暑いからか、それとも教科担任がやる気ないからか、俺はもうそれ以上授業を聞く気になれなかった。 またひとつ、ため息をつきながら窓の外を見下ろす。 窓際の席は、日射しが強くてくらくらする。 早く席替えしねぇかな。 このままここに座ってこんな話聞いてたら、頭がおかしくなっちまう。 手に顎を乗せ、何となしに下の中庭を見た。 と、そこで目がとまる。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加