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ある小説家がこう言った。
『 人生は一箱のマッチに似ている。
重大に扱うのは馬鹿馬鹿しい。
だが、重大に扱わなければ危険である。』
その作家は大正から昭和にかけて文学を産んだ男らしい。
その言葉は、現国の教科書の、隅の方にぽそりと書かれてあった。
人は日常に依存しやすい。と思う。
平穏な日々をつまらないと思いながらも、実際にその平和な毎日が崩れると、親を無くした子鹿のように唖然と立ち止まる。
かく言う俺も、その一人だろう。
毎日毎日が面白く、つまらない。
けれどこれが崩れるのが、怖い。
そもそも人間てのは、つくづく勝手なイキモノだ。
大人も子供もみんな、矛盾だらけで生きている。
動物みたいに、本能だけでは生活できない。
心の中の真逆なことを口にしたり、やりたくもない仕事をせっせとこなす。
そうして、時間がぽつぽつと波紋を作る。
それに、人は知らず知らずのうちに飲み込まれ、気がついたときにはもう手遅れ。
音もなく、溺れ死ぬだけだ。
と、俺はそう思う。
17年間生きてきて、そう思った。
暑い7月の下旬。
教師のダルそうな声とチョークの折れる音、シャーペンのノック、咳払い、パラパラと紙をくる乾いた耳障り。
こんな日の国語の授業はつまらない。
『この文はいったいどういう意味をあらわしているか。40文字以内で説明しなさい。』
そんな問題を見るたびに、はぁとため息が出てしまう。
(何を思って書かれたとか、どんな意味でこう表現したとか、そんなの作者である奴らにしかわからないだろ。)
たった40文字で、その作者の感情を言いまとめるなんて、一種のエゴなんじゃねぇの。
ああ、イライラする。
暑いからか、それとも教科担任がやる気ないからか、俺はもうそれ以上授業を聞く気になれなかった。
またひとつ、ため息をつきながら窓の外を見下ろす。
窓際の席は、日射しが強くてくらくらする。
早く席替えしねぇかな。
このままここに座ってこんな話聞いてたら、頭がおかしくなっちまう。
手に顎を乗せ、何となしに下の中庭を見た。
と、そこで目がとまる。
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