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中庭の真ん中にそびえ立つ、かなりの樹齢を積み重ねたと一目でわかる、大きな木。
その木の下には、人から忘れられたようにぽつんとひとつ、ベンチが置いてあった。
よーく目を凝らさなければ見逃してしまうくらい、ひっそりとそれは在る。
(あんなとこにベンチなんてあったのか。)
遠目からなのでよく見えないが、かなり古そうだ。
こんなにこの教室は人の音で溢れているのに、そのベンチの周りは静止画のようにしめやかで、緩やかに風が凪いでいた。
いいな、あそこ。
昼飯、あそこで食うか。
そう思ったところでちょうど、授業終業のチャイムが鳴った。
数人の友人の誘いを断り、俺は一人、パンが入ったコンビニ袋を提げて階段を降りた。
中庭に出てみると、思ったより暑くなかった。
外だから、とタオルを持ってきたがこれならあの教室にいる方が暑い。
人の熱で室温が上がってんのかね。
俺はあのベンチに近寄り、座った。
風が吹くと、ざぁっと木の葉が揺れて自然の音を奏でる。
上から見下ろしていたときはこの木の熱気が鬱陶しかったけれど、木陰にきてみれば裏を返したようにヒンヤリしていた。
ホコリっぽい学校のクーラーなんかより、よっぽどこっちのが涼しいな。
爽やかな青い風が気持ちよくて、目を閉じてベンチの背もたれに身をゆだねる。
ここだけ。
止まったらいいのに。
息をすれば、胸いっぱいに木の匂いが広がる。
ザワザワ揺れるのが、心地よい。
ざわざわ。
ゆらゆら。
ざわざわ。
ゆらゆら。
「あれ。」
ふと、遠くで人の声がした。
そこで自分がうつらうつらとしていたことに気がつき、意識を浮上させる。
「ここに人がいるなんて珍しい。」
んん。
なんかペタペタ顔を触られている気がする。
「あははっ、眉間にしわができた。
ねぇきみ、起きなよ。
さすがにここで寝たら風邪を引くよ。」
ふい、と重たい目を開けると、一人の男が俺の顔を覗き込んでいた。
「お、目を覚ますとますます男前だねぇ。
おはよう色男さん、ご機嫌いかがかな??
まあきみの機嫌はどうでもいいけど。
そこを占領してないでちょっとズレてくれるとありがたいなぁ。」
べらべらとよく喋る奴だな。
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