あおって世界に何色あるんだろうね

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ああ、あつい。 なんだこの、焦がれる感じ。 ただでさえ、暑いのに。 体に蔓延りはじめる熱が鬱陶しくて、俺はただパンをたいらげることでそれを無視した。 コンビニの袋が空になると、袋の持ち手を縛り、ゴミが出ないようにする。 「えっ、もう食べ終わったの?? 5本全部??」 「ん。」 「早食いは体に良くないぜー。」 「さっきからお前、オカンみたいなことばっか言ってんな。」 「オカン!? ちょ、やめてよ俺のイケメンなイメージ崩れるじゃん。」 「………いけめん?? 寝言は寝て言え。」 「もぉー素直になりなよっ!! それにほら、卵焼き美味かっただろ??」 俺はちらっと男の方を見た。 さっきの明るく光っていた茶色い瞳は、今は普通に黒い目だ。 さっきは、あんな顔したくせに。 なんだか面白くなくて、ぷいっとそっぽを向く。 まあ……。 「まあ、卵焼きは、美味かったな。」 ありがとう。 聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさで、そう呟いた。 風が強く吹き、ザワザワと枝が鳴る。 それにつれ、髪も揺れて顔や首筋を擽る。 夏の独特の匂いと、草の青っぽい匂いと、遠くの方から雨の匂いがした。 辺りは誰もいない。 きっと、このベンチのことは、俺とコイツ以外知るやつはいない。 教室にいる騒がしいクラスメイトも、ため息をつきながら職員室の机に向かう教師も。 みんなきっと、夏の水溜りのようなこの場所を知らないでいる。 学校社会から隠れるように存在し、ただ静かにひっそり息をするこの場所で。 久しぶりに、俺は矛盾の無い言葉を口にした。 視界の外れで、ふふっと笑う声がする。 「ん。俺のお手製だかんねー、そりゃ美味いに決まってるぅ。」 「お前が作ったのか。」 てっきり母親か女子にもらったんだろうと思っていたので、驚いて顔をまた男に向ける。 「そうよぉー。 なんかね、女の子たちに貰う弁当ってさ、栄養偏ってンだよねぇ。 あ、俺の母さん栄養調理師でさ。 そこんとこ気になっちゃうのよ、俺。 イヤイヤ他人から貰ったもん食うより、自分が食べたいもん詰めた方がいいって気がついたんだよねー。」 チャラいのか、そうでないのかよくわからない発言なのに、なるほどと妙に納得させられた。
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