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足元で揺れる猫じゃらし草が足首に当たって、少しむずむずする。
あ、なんか。
この感じ、今の胸のむずむずと似てんな。
そう思ったところで、小さくチャイムの音が聞こえた。
ここ、スピーカーもついてないのか。
おそらく、校庭から響いてきたのだろう。
腕時計を見ると、そのチャイムは予鈴であることがわかった。
一息ついて、ベンチから立ち上がる。
と。
くいと服を引かれた。
振り返り見下ろすと、男がにこにこと俺を見上げる。
「明日もくる??」
男は楽しそうにそう尋ねた。
俺が黙って頷くと、
「じゃあ明日は二人分作らなきゃな。」
とさらに嬉しそうに目を細めた。
その顔で、なんだかこの真っ青な空が真っ逆さまに落ちてくる気がして。
俺は急いでその場を去った。
人は日常に依存しやすい。と思う。
平和な毎日が壊れることを願い、そして恐る。
それでも悲しいことに。
それが面白いことに。
あっという間に日常というものは音をたてて崩れ去る。
ほら、こんなふうに、ざわざわと。
葉が擦れる音に似せて。
簡単に、崩れ去る。
だからだろうか。
教室から見下ろして約4m下の影溜まりの存在を、俺は誰にも話さなかった。
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