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「おっ、今日も来たねー男前!!」
「その男前ってのヤメロ。鬱陶しい。」
「なんでよー、嬉しいもんじゃね??」
「外見だけで俺を推し量られる感じがして嫌だ。」
どかっとベンチに腰を下ろした。
ここ一週間はずっとこいつと昼休みを共にしている。
というのもあの日の翌日、こいつが本当に弁当を作ってきたからだ。
そして、俺は見事に餌付けされ、毎日この木の下のベンチを訪れる。
「あはっ、まー分からなくもないけどさ。
仕方ねーじゃん、俺きみの名前知らないもん。」
こてっと男が小首を傾げ、笑う。
野郎がしても可愛くねェだろ、それ。
そう思いながらも、なぜか心臓は煩い。
暑いからだ、きっと。
そう自分に言い聞かせる。
俺はぶすっとしかめっ面になりながら口を開いた。
「俺だってお前の名前は知らない。」
「ええ?? 俺けっこうユーメージンなのに??」
「名前覚えんの苦手なんだよ。
つか、有名人の自覚あんなら、ちょっとは自重したらどうなんだよ。
こないだもなんか知らん女子に声かけてたろ。」
「女の子に挨拶するのは礼儀じゃね??」
「不特定多数にやればただのチャラ男だ。」
軽口を言い合いながらも渡された弁当の蒼い包みを開く。
蓋を開けると、何とも彩り豊かな食材が詰め込まれている。
軽く手を合わせ、箸をつける。
最初はやっぱり、卵焼き。
こいつが作る塩味の卵焼きは俺の好物の一つとなっていた。
甘い味付けより、断然こっちのがいい。
しっかしまぁ、今日も今日とて手が込んでるな。
一品一品食べるたびに感心する。
あっという間にプラスチックの中身は空になる。
少し名残惜しく感じながらも、蓋を閉じた。
「ん。美味かった。ありがとう。」
「はぁい、どうも。」
男は相変わらずにこにこと差し出された弁当を受け取る。
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