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竜は苦笑した。女のたくましさというか、その図太さに拍手したい気持ちだった。
「おいおい、あんたいつからここにいるんだ?」
「ずっといたわよ。今から2週間ほど前ね」
「災害のあった日じゃないか。モールで買い物中に襲われたのか?」
「違うわよ。あたし、この近くのキャバクラで働いていたんだけど、その日は朝帰りでね。その途中にこうなったの。他の人間達はパニクってたけど、あたしは真っ先にモールに逃げ込んで、ずっと女子トイレに隠れてた」
竜は話を聞いていて、一つの疑問を抱いた。
「なあ、襲われた奴らの死体はどうなったんだ?」
「知らないの。奴らは、食べ残しなんてしないの。襲われたら、まず肉を溶かされるわ。全身のね。そして食べやすいレベルになったら。服ごとパクっといくの。まあ、エコよね」
竜はまたも苦笑すると、少しだけ後ろに下がった。この女、どうも普通じゃない。関わらない方が良いかも知れない。彼の本能がそう告げたのである。
「ああ、ちなみにあたしの名はリナ。これ源氏名よ。本名はひ・み・つ」
「そうかい。悪いな。仲間が待っているんでな」
「へえ、そんなに生き残りがいたんだ」
「まあな。最も俺含めて三人だけだ」
「他の皆は死んだのかしら?」
「どうだかな。少なくとも、俺達は自分達が最後の生存者だと思っていた」
リナは気に入った服があったのだろうか。それを腰に巻き付けると、何だか満足そうに微笑んだ。
「でも、ちょっとだけ爽快かな?」
「爽快?」
「ええ、だって、今まであたしのことを見下して来た連中が死んで、あたしが生き残ったのって爽快だわ。ちょっと金があるからって偉そうな中年も、あたし安い女じゃないのよって、水商売を見下げている女も死んだんだから。これって最高よね」
リナは人としての醜い部分を容赦無く曝け出すと、そのまま竜から背を向けて暗がりの方に歩いて行った。
「おい、俺達と来いよ。単独で居ても意味無いだろ?」
「へえ、こんな胡散臭い女に同情?」
「さあな、あんたは俺に似ているからかな?」
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