第4話・餓鬼編その4

2/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「1、2の3で行くぞ。俺の合図が終わるのと同時に、モールの入り口に向かって走れ」 「ちょっと待って。やっぱり1、2で行った方が速く行けるよ」 「あのなあ。そんな相談している間に、もう3まで数えられるんだぜ」  竜は呆れたように言うと、小声で力強く合図した。 「行くぞ。1、2の・・・・」  まるでリレー競争のような緊張感が、紅音とヒロの体を強張らせた。 「3」  同時にアスファルトを後ろ足で蹴り上げて、二人は全力疾走した。目指す場所はショッピングモールの入り口の自動ドアだ。 「はあ・・・・はあ・・・・」  呼吸の苦しさも忘れて、無我夢中で駆け抜けて行く。自分の体が風を切っている感覚が、二人の体を高揚させた。こんなに危険な状況で、何故、ハイな気分になれるのか、二人は不思議だったが、きっとこの異様な環境が影響しているのだと、勝手に納得していた。 「キキキ・・・・」  蠢くカビ達は盲目では無い。確かに視力はほとんど無いらしく、近くで音を立てない限りはこちらに気付くことは無い。奴らは主に湿気のあるところを目指す。つまり、二人の汗を嗅ぎ付けて、二人の位置を見つけ出しているのだ。 「やばい、こっち来るよおおおおお」  ヒロは叫んだ。自分達の予想よりもカビの数は多かった。数えれば10体以上はいる。周りから囲い込むような、頭脳プレイは奴らの頭には無いらしく、全員が一斉に、同じ場所から、ヒロ達目掛けて走っていた。そのおかげで、仲間同士でぶつかり合ったり、決してスムーズな追跡とは言えなかった。 「見てよヒロ。あいつら、仲間割れしてるわ」  カビ同士の衝突を見ながら、二人はショッピングモールの入り口にまで辿り付いた。自動ドアは機能しておらず、少し遅れて来た竜が、拳銃でガラスを破壊することで、ようやく店内に入ることに成功した。 「ああ・・・・」  ヒロと紅音は全身に汗を掻いていた。竜はそれを苦々しく見守った。 「二人とも、汗拭けよ。アイツらが気付くぞ」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!