第4話・餓鬼編その4

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 三人は停止したエスカレーターを階段のようにして上った。3階まで辿り付くと、そこは洋服売り場の階層らしく、そこらじゅうに衣服の入ったカゴが設置されていた。 「ラッキーだな。ここなら服は選びたい放題だぜ」  竜は笑っていたが、体の緊張は解けなかった。それは紅音もヒロも同じことだ。神社よりは安全な場所に思えるが、店の外を取り囲んでいるカビ達を見ていると、とてもじゃないが、精神的に耐えられそうにない。 「他に人はいないのかしら?」 「どうだかな。避難場所には最高だが、外の様子じゃ、ほとんどカビに喰われちまっただろうな。何せ、数が多すぎる」  三人しかいないので、声が店の奥まで響いて戻ってくる。かつて、親子で賑わっていた、この場所も、今や見る影も無い。  明かりの消えた薄暗い店内で、怯える三人を嘲笑うかのように、遠くから何かを探るような、ガサゴソという音が聞こえて来た。 「誰かいるぞ」  竜は拳銃を構えた。その音の主は、以外にもすぐ近くにいる。何かを探しているのか、音はどんどん大きくなっている。 「おい、誰かいるのか?」  竜は拳銃を構えて、音のする方向へと走った。そして音の主へと銃口を向けた。 「おい」 「ひい・・・・」  そこにいたのは、金髪の長い髪の毛をした女性だった。胸元の開いた赤いドレスに、薬指には指輪が付けてあった。 「お、おっと、あんたは生存者か?」  自分達以外の人間は全滅したと思い込んでいた、竜達には大変な驚きだった。 「他に仲間は?」 「いないわよ。たく、いきなり現れて失礼ね」  女はこの異常事態にも冷静だった。というよりも、もう慣れてしまったのだろう。たくさんの衣服が詰め込まれたトレイを漁っていた。さっき聞こえた、ガサゴソという音の正体はこれだったのだ。 「あんた、何してんだ?」 「放っておいてよ。どうせ、皆死ぬんだから、服の一枚や二枚盗んだって、罪にはならないでしょ」  女は所謂火事場泥棒の類であった。
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