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ウェルナーが近づいてもその聖騎士はぐうぐうと鼾をかいて眠っている。長旅で疲れているのだろう。ゆっくり寝かせてやりたいが自分の自室で寝ないと夜風は冷えそうだ。
「あの、すみません。こんな所で寝ていては風邪をひきますよ。」
青年の肩を軽く叩くと青年の目がゆっくりと開いた。ぼんやりした目でこちらを見る姿が少し可愛いなぁと思ってしまう。体格の良さと幼い動作がミスマッチしていた。
「・・・どのくらい寝ていた?」
「どうでしょう。僕も今来たところで・・・。宿泊室は見つかりましたか。」
「ああ、おまえはさっきの学生か。さっきはありがとな。この部屋の教授に会いに来たのなら、まだ戻ってきてないみたいだぞ。こんな夜更けにどこに行っているのか。」
「いえ、僕がこの部屋の教授で、ウェルナー・D・ザイドと申します。」
自分の言葉にぽかんと青年は口を開けた。
「本当です。」
見習いの少年達といいそこまで驚かなくてもいいのにと思う。やはり年をとらないというのは何かと不便だ。
「黒の魔法使いと聞いてヘヴィング教授のような老魔術師を想像していたが・・・。失礼した。私の名前はアレックス・リード。リベラル聖騎士団所属。第9階位の聖騎士です。」
真面目な表情になったアレックスが祈るように片膝をつき、聖騎士としての最上位敬礼をウェルナーにしてみせた。第9階位というのは、聖騎士としては最上位の階級であるはずだ。その聖騎士がいったい自分に何の用だろうか。
「第9階位の聖騎士様が僕に何の用でしょうか。聖魔同盟の規約では互いの不可侵は尊重するということが第一条に盛り込まれているのですが。まさかさらに監視を増やすおつもりですか。」
宗教戦争後、魔法使いは塔で勉学をし卒業すれば外の世界に出られるという取り決めが、塔の主と新教皇とされている。未熟で魔法を暴発させがちな魔法使いを抑えるのに、態々聖騎士を借り出す必要は無い。聖騎士がこの塔に駐在している本当の理由は自分の監視なのだ。
黒の魔法使い。竜の心臓。深淵の王。
呼ばれ方は色々あるが自分はまだ何もしていない。”英雄詩”に出てくるような魔法使いが使っている魔法が使えるからといって、自分だけ監視されるのにもいい加減飽き飽きしていた。
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