第1章 学びの塔

12/13
前へ
/39ページ
次へ
 「私自身も困惑しているのですが、どうやら私は貴殿の私兵をすることになったようです。これは私の義父である聖騎士団長と、塔の主との間に決まった取り決めらしいのですが。ヘヴィング様からお話を聞いてはいませんか。」  予想とは違う聖騎士の言葉に全力で首をふってみせた。11階層全てを貸し与えたり、私兵をつけたり、ヘヴィングは完全に親馬鹿な父親のようである。  「全ての魔法使いに自由をというのが義父の口癖で、貴殿のことは大分気にかけていました。現在の教皇ラズエル2世も義父には逆らえず、今回の措置をとることになったのです。義父は宗教戦争でリベラル騎士を率いた・・・ある意味英雄ですから。」  アレックスが少し誇らしげに義父のことを語るのを見て自分とヘヴィングの関係のようだと思った。こんなにハンサムな青年が私兵になってくれるのは嬉しいことだが、どうして急にそんなことをしようと思ったのか。まだヘヴィングの考えが読めない。  「私があなたを監視して安全が保障できれば、あなたは晴れて自由に塔の外に出ることができるようになります。ただし表向きは監視ではなく私兵ということでお願いいたします。親魔派とはいえ黒の魔法使いを外に出すことを恐れる聖騎士達も多いですから。」  「塔の外へ出られるのですか。」  思わずウェルナーの声が大きくなる。それを見てアレックスは温和な表情でウェルナーの頭をくしゃりと撫でた。  「おっと、すいません。どうにも見た目が子供っぽいから、孤児院の子供達にやってるように手が出ちまうな。」  頬をかき少しアレックスがはにかんで見せる。その表情を見た途端、またとくんと心臓の音が高くなる。感じたことのない感情の高ぶりにウェルナーは戸惑っていた。アレックスは魔法使いでもないのに魅了の魔法でも使えるのだろうか。そんなことすら考えてしまう。  「では定時報告へ行きますので失礼させていただきます。私が寝てたことは内密にお願いします。」  悪戯っぽい笑顔を浮かべ階下へアレックスは立ち去ろうとする。  「あの・・・。」  そんな青年に思わず声をかけた。  「敬語じゃなくて素でしゃべってほしいです。たぶん自分のほうが年下だと思うので。」  変なことを言っているのはわかってはいる。だけど敬語では距離が縮まらないような感じがしたのだ。そこまで考えて自分が聖騎士と仲良くしたいと思っている事実に困惑した。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加