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 塔の3層分の内壁をまるまる使った”寮”と呼ばれるこの空間は6層、7層、8層の階段付近に暖炉のある談話室があり、そこから円形に部屋へと続く階段が伸びている。  ジェスが初めて自室に入った時の感想は、馬鹿でかいという一点だけだった。一人部屋なのにも関わらず田舎にある自分の家より広い。扉を開けるとすぐにダイニングとキッチン、中にはリビングがあり、寝室が別にある。  その広さが尚更自分を孤独にさせた。  敷き詰められたふかふかの絨毯。高価な蝋燭の火。そして本棚にある難解な本。  どれも初めて見るものだった。  ”学びの塔”へと向かう長旅で疲れてはいたが、どうしても眠れなかった。不安だったのだ。聖騎士の前やレナやダレクの前では気丈に振舞っていたが、両親や友人が恋しい。恋しいが戻れない。自分はその友人を傷つけてしまったから。  自室に置いてあった魔法使いのローブに着替え。適当に本を持ち、人のいそうな場所へ向かう。そこが談話室だった。  新たにやってきた3人を歓待するわけでも無く、しかし他所他所しくも無い微妙な距離感。先輩達も塔に連れてこられた時のことを思い出しているのかもしれない。魔法使いという仲間意識があるからか、近くにいるだけで安心できた。ここでは自分がいるというだけで拒絶されることは無い。  人恋しさから先輩魔法使い達の横で読めもしない本を読んでいるふりをしていると。ダレクとレナも順に自室から出てきた。  二人とも自分と同じ気持ちなのだと知り。少しほっとする。  「そういえば自己紹介をしてなかったな。」  向かい合って椅子に座っていた二人の顔を交互に見ながら話を切り出す。聖騎士達の前ではしゃべることを禁止されていたので、一緒に旅をしていたが会話をするのは始めてだった。  「俺はジェス。ジェス・ロバート。田舎の畑を荒らしていた野犬を、炎の魔法を使って追い払っていたところを騎士達に見つかって、ここに連れてこられた。」  塔に来ることになったきっかけを思い出し身震いした。魔法使いだとばれたときの父と母の顔。恐怖に彩られた青褪めた顔は、自分の子供を見る顔じゃなかった。  魔法の暴発。怪我をさせてしまった幼馴染。  謝罪の言葉も言えずに、ジェスは聖騎士達に捕らえられていた。
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