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本の中の物語の始まりはいつも興奮と期待で満ち溢れていた。
彼らの冒険には時には苦難もあっただろう。困難な状況にも陥っただろう。それでも彼らはどんな状況からもそれを乗り越えていった。
だからこそ僕は本にのめり込むのかもしれない。
何十もの魔物の討伐をし武勲を立てた戦士の話。
グリフィンの背に乗り王国の姫君を幽閉された城から助けた聖騎士の話。
財宝を求め危険な洞窟を探検する盗賊の話。
彼らの陥った色々な状況、人生、心理状況を読み取ることで、自分の人生に活かそうとしている。或いはただの現実逃避のかもしれない。
僕の物語はどこへ向かうのだろうか。
ミルド大陸のほぼ中央に位置するケロベロスの森。その森の奥深くには12層にもおよぶ階層が連なる塔がある。
黒の魔法使いなんて呼ばれている僕がいるのはこの塔だった。
大陸中から集められた魔法の才のあるもの達にその術を教える場所。いつしか”学びの塔”と呼ばれるようになった塔である。
ここに来て既に十数年。
僕はこの塔から外の世界へ旅立てずにいる。
「魔法は神を汚すものである。」
15年ほど前にそう断言した時の教皇エドワードIV世は、かつての大戦で魔法使いがつくしてきた恩を忘れ魔法使いを異端審問にかけ始めた。
親魔派であるラズエル?T世との宗教戦争に敗北する10年前まで、聖騎士に捕まった魔法使いはこの塔へ強制的に投獄され今の僕と同じように外の世界に出ることができず不自由な暮らしをしてきたという。
僕がこの塔にやってきたのは丁度戦争の終戦期。
ラズエル一世が宗教戦争に勝利したそんな時だった。いや、正確には最後の囚人といっていいかもしれない。その後少しして塔の自治が親魔派の教皇に認められ、この場所は囚人たちの監視の場から学びの場となった。
今の塔の主である老魔術師ヘヴィングがラズエル1世に対して取引をもちかけたという話は耳にしていた。ただそのことについては僕は詳しくは知らない。恩師であるヘヴィングが悲しそうな顔をするので僕は深く追求できなかった。宗教戦争の真っ只中におきたそれはまた別の物語だと思うことにする。
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