9/13
前へ
/39ページ
次へ
 学びの塔を囲う防壁を守っていた聖騎士達がその歩みを止めようと防壁の上から弓を放っていたが、丸太のように巨大な腕の一振りで吹き飛ばされてしまった。  防壁には魔法の力で巨大な防御の呪文がかけられている。50mはある巨大な樫の木の一振りも、防壁の上で迎撃している騎士達をなぎ払うだけで壁自体には全く傷がつかない。それでも何度も壁自体をあの質量で殴りつけられてはいつまで持つかわからなかった。  「君達は塔の中に戻りなさい。」  口を開け金縛りにあったように動かない生徒の背中をウェルナーは押す。  3人の教え子が塔の中に戻るのを見届けると、ウェルナーはまるでストレッチをするようにぐうっと背伸びをした。その途端、ウェルナーの感覚が”探知の印”の効果で倍増し、塔で起こっている事が手に取るようにわかるようになる。  門の近くで薬草学の先生であるアリス教授が、大樹に向けて泣きそうになりながら声をかけているのが見えた。気の弱い女の先生だったが、生徒を護るために体を張って大樹の進行を食い止めているのだ。それに引き換え、生徒に続いて塔の中に逃げようとしているシャーク教授に嫌気がさす。いつも嫌味を言われているので尚更腹が立った。  後の教授達は塔の中で生徒の安全を確保しているようだ。さすがに行動が早い。  「ウェルナー、あれは何だ?」  「古代樹と呼ばれる魔法生物でケロベロスの森の番人だ。本来なら友好関係にあるはずなんだけど、誰かが契約を破ったのかな。」  「契約の内容は?」  「必要以上に森の植物を採集しないこと。ケロベロスの森にしか生えない貴重な植物や動物がいるから、密猟者も多くて困っているんだ。」  「・・・最後の質問なんだが、あれは倒していいのか。」  普段のクールな表情が身を潜め好戦的な表情を浮かべるアレックスに、ウェルナーも同種の笑みを浮かべる。何となく自分がアレックスに引かれる一端がわかった気がした。  「話ができる状況にもっていく。こちらに非がなければ彼女は怒ったりしないからね。」  「彼女?あれは女なのか。」  「あれはただの使い魔さ。本体は別にいるけど、あれを止めれば大丈夫なはずだ。」  含みのある言葉にアレックスが怪訝な顔を浮かべた。その言葉を最後に、二人が塔の庭から門へ向けて走り始める。    
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加