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「一陣の突風、我を運べ、厩舎に繋がれし馬」
アレックスと共に門へ向けて走りながら、ウェルナーが呪文の言葉を口ずさむ。鼻歌のような旋律に体が軽くなりウェルナーが加速した。
摩擦、重力、圧力といった自分に負荷をかけている力に抵抗することで、自分の能力をあげる呪文なのだが、その呪文をかけている自分よりもアレックスの身体能力は高かった。
魔法で加速したウェルナーより早く、塔の正門についたアレックスが跳躍し剣を振るう。生身で数十メートルはある門の上に飛び移ったのかと度肝をぬいたが、よくよく目をこらすとうっすらと青年の手から糸のようなものが放たれていた。恐らくそれを門に飛ばし自分の体を引っ張ったのだろうと瞬時に推測する。
門を破ろうと大樹が振るった腕を、アレックスの剣が綺麗に真っ二つにした。そのおかげで無遠慮に門を叩いていたノックの轟音が止む。
「俺がやる。おまえらは下がっていろ。」
塔を警備していた他の聖騎士達がひるんで動けない中、全く臆することなくアレックスは大樹と対峙した。
腕を切り取られ大樹は一瞬怯んだが、それも一瞬ですぐさま腕が生えてしまう。植物ならではの再生能力といったところか。やっかいだが手は止める手段は何通りかある。
「なるほどそういうことか。”聖言付加(エンチャントメント)”」
ウェルナーと同じように瞬時に相手の特性を理解したアレックスが呟くと、誓言と共に聖騎士の剣が白く輝いた。
大気が振るえ周囲のマナが消え去っていく。あれは、この世界にあってはいけない。そんな不安な気分にさせる輝きだった。
そんなことを考えるのは、自分が魔法使いだからかもしれない。
ウェルナーが思考している間に、アレックスは大樹の腕を先ほどと同じように跳躍して切り落とした。しかし、今度は再生されることはなかった。光の剣が周囲のマナを消したことで、古大樹の活性能力を阻害していた。
「傷つける魔の枝よ」
切り取った腕の断面以外から蔦が伸び、アレックスを捕らえようとする。
空中で身動きのとれないアレックスを狙う蔦を、ウェルナーの放った色とりどりの魔法の矢が撃ち落としていく。アシストくらいにはなったかと思ったが糸は自由自在に出せるようでそんな必要は無かったと気づかされた。魔法使いでも無いのに空中を自由自在に青年は飛んでいく。非常に興味深い。
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