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「怖かったです~、ウェルナーさん。」
ウェルナーがようやく正門に辿りつくと、メガネをかけたアリス教授が、次の詠唱に入ろうとするウェルナーの体に抱きついてきた。どうやら説得は失敗に終わったようである。
「ちょっと待ってくださいアリス教授。戦闘中ですよ。」
「誰かがフラウの幼木を盗んだみたいです~。犯罪です~。」
「はいはい、わかりましたから。僕を杖で攻撃しないでください。」
アリス教授の攻撃からようやく解放された時には、アレックスはもう片方の腕を切ろうとしていた。
二人が駆けつけるまでに、聖騎士である門番が警備の任を全うしたようだ。口約束だけだと思っていたのにもかかわらず、リベラル騎士は命をかけて古代樹の進入を食い止めてくれていた。そのことに少し戸惑う。自分が思っていたよりも世界は変わろうとしているのか。
アレックスの優位を悟ったウェルナーは、自分は攻撃には参加せずにアリス教授と共に負傷した聖騎士の治癒にあたった。誰も死なせはしない。死なせたくない。
「おお、賢者よ。汝の術を今ここに。」
ウェルナーが囁くと倒れている聖騎士達の体が、一斉に黄色い輝きで包まれた。
ウェルナーの呪文に周囲のマナが歓喜する。言葉はマナを呼び、マナは力となり、アルヴァースの世界に魔法という名の奇跡を起こす。
血の気の引いた肌はすぐには戻らないが、これで全員分の傷口は塞げただろう。
「ほんとでたらめな魔力ですね。この人数を一瞬で回復するなんて。」
嫌味か賛辞かウェルナーに向かって彼女は呟いた。
彼女が自分で調合したポーションを与えやすいように、アレックスと大樹の戦闘地域から、青のマナを使って全員の体を浮遊させ全員をまとめて運んでいく。
「・・・ありがとうございます。」
アリス教授が口元にポーションをもっていくと、意識が残っていた一人の聖騎士が感謝の意を表したのが聞こえた。
「いえいえいえいえいえ、気にしないでください。」
呂律の回らない声でアリスがそれに対応する。
聖騎士を安全な場所へ運んでいるウェルナーをアリスが見た。それに対し自分も目を見開いて返す。こんな反応をされるなんて思ってもいなかった。
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