第1章 学びの塔

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 とは言うもののいまだに聖騎士に塔の外壁を警備されているこの状況は昔と何も変わってはいない。大陸に無数にある砦よりも磐石な警備体制。騎士達の熟練した動き。中にいる魔法使いを常に監視するために彼らは駐在していた。魔法使い達を塔に閉じ込めることで大陸の人間が安心して暮らすために。  結局この塔は今も昔も魔法使いを監視し”教育”するにはうってつけの塔なのだ。自治なんて聞こえのいい言葉は、大衆向けの言葉といえる。過去の痛みを忘れ教会と魔法使いはまた手を取り合い協力し合っているのだという。そんなわかりやすいアピールをしているのだ。  この塔で出来ることなんてたかが知れている。  ”学びの塔”と呼ばれるだけあり魔法の勉強をする場所だ。なら勉強を終えたらどうなる。地下にある何万冊もの本もこの数年でほとんど読みつくしてしまった。  退屈だ。外に出たい。  退屈だ。外の世界を見たい。  欲求は日増しに強くなっていく。  学業を修め本来なら同期とともに卒業しているはずだった。それなのにまだこの場所から外に出られない。我が儘を言っても仕方の無いことだろう。魔法使いというのは本来知識の探求者なのだ。本の中の話だけではなく実際にこの目で見て学びたいと思うのは必然だ。  ウェルナーの思考を金属同士の擦り合わされる不愉快な騒音が遮った。  音は塔の外から聞こえた。外部に秘匿されているうえに魔法使いによる自治という理由からか、外の世界から訪れる客人の数は少ない。この塔を卒業した魔法使いが文献を探しに訪れるか、変わり者と呼んでは失礼かもしれないが、魔法使い好きな男爵からの使者くらいだろうか。それだけなら構わない。むしろ外での土産話を聞けるから大歓迎なのだが、時折それ以外の招かれざる客が新しい仲間を連れてくることがある。  今日の客人は招かれざる客なようだ。  魔法使いならむしろ歓迎すべきことなのかもしれない。  あるいは嘆くべきなのか。   ぼんやりと塔の外壁に空いた窓に腰をかけて外の様子を見ていたウェルナーは、聖騎士達に連れられ怯えながらもこの塔の門を潜る少年少女に過去の自分を重ねていた。
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