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 書き物をしていた手を止めたウェルナーは、今日の昼にあったことを思い返していた。  ケロベロスの森のフラウの幼木が何者かによって盗まれ、森の守護者である”大地の幹”との契約が反故にされた。宗教戦争時、この学びの塔が聖騎士達に占拠されなかったのは”大地の幹”の加護があったからだと言われている。今でこそ友好の証に聖騎士を常駐させているが、契約の反故により機嫌を損ねた彼女が、学びの塔を護らないということになってもらっても困る。  どんなことがあろうとも、自分はこの塔にいなくてはならないのだ。  学びの塔の主である老魔術師ヘヴィングは、聖騎士達も含めた全員に塔の外へ出ないことを命令した。聖騎士達の中から不服の声が上がると思いきや、すんなりその命令は通り。全員がウェルナーと同じように塔で生活することになった。確かにこれで犯人を閉じ込めることができたが、いったい誰がそんなことをしたのだろうか。  そこまで考えていると欠伸が出た。  時計を見るといつの間にか日付が変わっている。書室から出て、目をこすり一息つこうとキッチンへと向かう。お湯をわかしぼんやりと湯気を見ていると、自室の扉の外に誰かがいる気配がした。  「アレックスはまだいるのか・・・。」  とっくの昔に自室に戻っていたと思っていた。私兵というのは主が寝るまで寝ない者なのか。いや、指示をしなければいけないのだろうか。正直普通の私兵というものが何をするのかわからないのだが、そろそろ寝たほうがいい気もする。  扉を開けると赤髪の青年がこちらを振り返る。何やら緊張した表情で周囲をうかがっていた。  「どうしたんだ?」  「いや、先程から見習いの魔法使いが蝋燭を盗みにきてな。何でそんなことをするのか聞いても誰も何も話してくれずに逃げていくんだ。」  困ったように頭をかくアレックスに、ウェルナーははぁとため息をついた。  またシャーク教授のわけのわからない嫌がらせが始まったのだ。本人が直接手を出す分には無視するだけなのだが、こうやって生徒を使おうとするその性格の悪さに腹がたつ。 実はこういう理由で・・・。」  「なるほどそういうことか。どこの世界でも嫌がらせはあるもんだな。」  「そうなんだ。だから生徒をあんまり怒らないであげて。教授に単位を貰えないと僕みたいに塔にずっといなければならなくなる。」
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