第1章 学びの塔

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 今でこそこの学校できちんと学問を修め卒業すれば、魔法使いは外の世界へと旅立つことができようになったが、”宗教戦争”で植えつけられた魔法使いは忌むべき者だという烙印は、10年経った今でも消すことができずに人々の間で受け継がれている。  子供達の怯えきった顔と子供達を囲む聖騎士達の微妙な距離加減からそれが如実に読み取れた。子供達が聖騎士を恐れているのと同様に、聖騎士もまた魔法使いである子供達を恐れているのだ。  親魔派の教団騎士”リベラル”の聖騎士ですら魔法使いに恐怖している。  その事実を嘆く一方で戦争の傷跡はウェルナー自身や他の魔法使いにも残っていた。  騎士達の鳴らす鎧の音が塔にいる自分のもとまで伝わってくる。その音を聞くたびに、かつての記憶を思い出しローブの中の手が小刻みに震えた。  もちろん彼らは対魔派の騎士たちとは違い魔法使いに対しても敬意を持って接しようとしてくれている。しかし幼い頃に受けた傷は中々癒えることなくトラウマとなって、少年の心の奥底で泣き声をあげていた。  「おまえは魔法使いの中でも特に忌むべき存在。命だけでも助かったことを、男神ゲイツに感謝しながら塔の中で生きなさい。」  記憶の中の前教皇が黒い本を地面に投げた。  取り返そうとする少年の華奢な腕を、聖騎士達が力づくで押さえ顔を地面に押し付ける。口の中に血の味がする。抵抗しても子供の力では振りほどくことができない。  少年が見ている目の前で教皇は何を思ったのか本を剣で貫いた。それと同時に全身を言いようのない痛みが襲う。あまりの痛さに涙が出てきた。少年自身は剣で貫かれていないというのに、刺すような痛みが教皇の剣の動きとともに胸を突く。  「そなたが魔法使いであることがおしい。こんなにも愛らしい少年であるというのに。」  本に剣を刺す行為に飽きたのか、教皇が少年に近づいた。自分の顔に舌が這うのがわかる。なめくじが顔を歩いているような気持ち悪さだった。  ゆっくりと節くれだった皺のある手が少年の衣服を剥いでいく。  上半身が露になった。  滑らかな肌が蝋燭の光に照らされて、艶かしく汗を反射させている。その汗を、少年の顔から下に移動した老人の舌が丹念に舐めとっていく。  痛みと嫌悪で混濁する思考の中、はっとして我に返った。  金属音を聞くといつもこれである。体中から汗が出て呼吸が荒くなる。
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