第1章 学びの塔

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 「なるほどそういうことでしたか。」  ウェルナーは一人で納得した。  10年前まで協会による魔法使いへの弾圧はそれはひどいものだった。他の魔法使いにとってみても聖騎士とはあまり関係を持ちたくないということなんだろう。だからといってその対魔派のエドワードIV世を倒した親魔派の聖騎士にそこまで冷たくする必要はないだろうに。そう思っている自分も騎士甲冑の音を聞いただけで震えが止まらなくなるトラウマを克服できないでいるのだが。  「一つ下の階層に下りた後、西へ向かって廊下を歩いてください。しばらく歩くと騎士の像が立っていると思うので、彼が持っている剣に3回自分の剣を当てれば部屋への扉が開くこと思います。一つ下の階層へは9時方向にある階段から降りると早く着くことができますよ。」  塔の構造を思い出しながら丁寧に騎士に説明した。塔は外敵からの進入に備えて特殊なギミックが存在するため毎年迷ってしまう騎士たちは多い。  「ありがとう。助かった。・・・頼みついでにもう一ついいか。」  「なんでしょう。」  「魔法を見せてくれないか。」  真面目な顔で話しかけてくる青年に思わず噴出してしまった。  「あれ、何か可笑しいこといったか俺。」  「聖職者の方は知らないかもしれないですが。”魔法を見せくれ”って民間だと”下腹部を見せてくれ”、つまり”やらせてくれ”って言う俗語なんですよ。魔法なんて誰も見たいと思わないですから。」  「し、失礼しました。」  顔を真っ赤にして一礼をした聖騎士が足早に去っていく。やはり親魔派の聖騎士は対魔派の聖騎士に比べ優しいのかなぁと思った。ただエッチな本で読んだことを冗談めかして言ってみたのだが、あんなに顔を真っ赤にするとは。年も近いようだしウェルナーは少し彼に興味をもった。  それにしても何故魔法なんか見たかったのだろう。  のんびり考えたかったがそうも言ってはいられない。ローブから取り出した金細工の時計を見て、ウェルナーは慌てて聖騎士とは反対側へ向かって走り始めた。  今自分がいるのは”第一の廊”と呼ばれる塔の一番外側の区画である。  この場所は”学びの塔”にいる学生達の教室があり”大広間”から直接来ることができる。”大広間”は塔の正面玄関から直接入ることができ、1層から2層をくり貫いて塔の内部に広がっている。その”大広間”にウェルナーは用事があった。
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