第1章 学びの塔

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 広間につくと既に赤、青、黄色のローブを着た5人の魔法使い達が整然と並び、ゴブレットのような器を挟んだ反対側にいる少年少女を見ていた。  5人から離れて橙色のローブを着ている魔術師が一人だけ器を調べている。この塔の主であるヘヴィングがこれから行われる儀式に向けての作業をしているのだ。彼もまた手を動かしながらも、視線だけは子供たちに向けていた。ある者は歓迎するような目を、ある者は悲しそうな目を、6人の魔法使いは全員ばらばらな表情を浮かべ彼らを見つめている。自分がこの塔に来た時のことを自分と同じように思い出しているのかもしれない。  ウェルナーがその輪に加わるとその中の一人が自分が最後に来たことを咎める様に咳払いをしてみせた。己よりすぐれた魔法使いである自分を目の敵にしているシャーク教授である。毎度のことなので無視をし何食わぬ顔で魔法使い達の輪に加わった。  「ふぉっふぉっふぉ。ようやくウェルナー先生が来たようじゃな。きっとわしの部屋の紅茶がきれそうなのでお裾分けをしてくれていたに違いない。ウェルナー先生は薬草学にも精通しておってな。おっと、失敬。それではこれより、”色分の儀”を執り行う。」  教授の誰かが咳払いをしたので塔の主が慌てて宣言した。厳格な雰囲気が和らぎ子供たちが笑いを堪えるているのが見える。  それを見たヘヴィングがウェルナーに向かってウィンクした。  覆水盤と呼ばれるゴブレットのような器をローブから取り出した杖で老魔術師が2度3度器を叩く。それだけで何も入っていなかった器の中に水が溢れ始めた。  赤でも青でも黄色でも無い。しいて例えるなら灰色のような不思議な感覚。ウェルナーは器の中に溢れるマナを無意識のうちに色づけした。毎年見ているがとても奇妙な魔法だった。  「ダレク・ハイト。」  名前を呼ばれた体の小さな少年が覆水盤の前におずおずと進み出る。  ウェルナーがいない間に既に説明されていたのだろう。ヘヴィングから短剣を受け取ると、自分の指を少し斬り、血を一滴水の中へとたらした。すると覆水盤の中の水が赤では無く青色に染まっていく。そしてまた何事もなかったかのように水が透明にもどった。  「おぬしは青の魔法使いのようじゃな。では次レナ・ノーム。」
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