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昼休みの時間はまだまだ続いているので、彼はフェンスまで近づくと、わたしを手招きする。お弁当箱をバンダナで綺麗に包み、トートバッグへしまってから、ゆっくりと近づく。
「グラウンド近くに、桜の樹木がたくさん植えられているのだな?」
「創設当時、記念に桜の樹木を植えられたらしいよ」
わたしもフェンスに手をつき桜の樹木を眺める。今日はそれ程風が強くないので、植えられているたくさんの桜の花弁がそよそよと舞っていた。
「この学校にさ、冬にしか咲かない桜の樹木があって、それを男女で見ると永遠に結ばれるとかなんとか……って女子が噂していたのだが、それって本当か?」
「本当かどうかは定かではないけど、噂になるくらいだからたぶん……一本くらいはありそうだね」
あはは、と苦笑を浮かべると、わたしが幼い頃、祖母に何回も聞かせてもらった、おとぎ話のような話を思い出していた。
祖母はこの高校の一回目の卒業生で、冬に咲く桜の樹木を見たと、わたしが幼い時に何度も話してくれた。一緒に見たという相手は祖母の夫、つまり祖父なので、幼い頃は瞳を輝かせ、とてもロマンティックな話だと幼いながらに楽しく聞いていた。それがフィクションかノンフィクションかどうかは今でも定かではない。どちらであっても、恋する女性なら誰しも憧れるようなおとぎ話は嫌いではないので。
「榎波はその噂、信じているのか?」
「うーん……友達はそういう恋愛絡みの噂話は好きだから信じているみたいだけど、わたしはやっぱり実際に自分の目で見ないと信じないタイプかな?」
「なるほどね。榎波って意外にリアリストだったんだ」
「そうかな?自分では良くわからないけど」
二人は満開の桜を眺めながら、他愛もない話に花を咲かせる。
午後の授業、清掃も終わり、いざ、放課後!といき込んでいたのだが、再び事件が起こる。
通学鞄へ教科書や課題に使用するノート、参考書などを入れていると、例の彼が話し掛けてきた。
「榎波、放課後校舎案内してよ」
――――はい?幻聴が聞こえたような……気がしたが、再びの妬みの含んだ女子の視線で、現実なのだとつきつけられた。
チラリと麻那へ視線を向けると笑顔で頷かれた。その笑顔は暗黙の了解なのか、陽花は全てを覚る。
麻那には再びメッセージアプリで長文の謝罪文を送信しようと心に決めた。
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