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「一通り校舎を案内したけど、満足していただけましたか?」
「最後にひとつ、お願いがある」
「お願い…とは?」
「間近で桜を見てみたい」
わたしは彼の『お願い』に快く了承する。
一旦教室へ戻り、直ぐに帰宅できるようにと、お互い鞄を持ってグラウンド近辺に植えられている桜の樹木まで近づく。
「間近で見るとやっぱり凄いな」
「学校の桜も綺麗だけど、巳吉川の土手沿いに植えられている桜も綺麗だよ?土手に沿って何本も植えられているから、満開で見頃の時は圧巻だね!」
「へぇ……。榎波ってやっぱりここの地元?」
「苑宮君と同じで7歳までこの巳吉市に住んでいたのだけど、父親の仕事の関係で8歳の時に都内へ引っ越してしまったの。でも、わたしが中学生になってから、再びこの地元へ戻ってくることができて」
彼はそれ以上何も質問してこなかったので、わたしも何も話さず、ただ、静かにお互い桜を眺め続けた。
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