6人が本棚に入れています
本棚に追加
季節は巡り、今年もまた、春の季節を迎える―――。
この世に生を受け、榎波陽花(えなみはるか)は17年目の春を無事に迎えることができた。
高校指定制服である、白地に紺色の襟。襟元と袖口に白いラインが二本入っているセーラー服に袖を通すのも二年目となった。中学はブレザーだったので、セーラー服に強い憧れがあり、特にスカーフを結ぶのは新鮮で、二年たってもその感情は変わらないでいた。靴下も中学は白色だったので、紺色のソックスに強い憧れがあり、朝目覚めてから、毎日制服へ袖を通すのが嬉しい陽花である。
セーラー服へ着替えてからは、壁に立てかけてある大きな姿見鏡の前まで移動し、背中まで伸ばされた漆黒の艶やかな髪を櫛でまっすぐに梳かす。紺色のスカーフを綺麗に結べたら、鏡の前でそのままくるりと一回まわって最終チェックを済ませる。机上へ置かれた革製の通学鞄を肩に背負い、やっと部屋を出た。
「お母さんおはよう!」
キッチンで朝食の支度中の母親に朝の挨拶を済ませると、時間に余裕があるのか、朝食の手伝いと弁当作りの作業にとりかかる。
暫くして、ダイニングテーブルに置いてあったスマートフォンから、単発的な音が響いた。
音の出所を確認するために画面をタップすると、陽花の親友の仁藤麻那(にとうまな)がメッセージアプリから陽花へメッセージを送信し、それを受信された音だった。
朝食を摂りながら陽花は、麻那から届いたメッセージへ返信する。
朝食を終えた後は、忘れ物はないか最終確認してから余裕をもって登校となる。
陽花の住む地域は桜が有名で、見頃の時期になると、観光客で賑わいを見せる。
自宅近辺には巳吉川(みよしがわ)があり、その土手沿いには、桜の樹木が何十年も前から植えられている。見頃の時期に土手沿いを通ると、まるで桜のトンネルの様に樹木が続いており、花びら舞う景色は圧巻である。
入学式を終えて一週間が経過した今頃は、花見のピークを迎えており、陽花の住む巳吉市は、朝早くから花見の観光客で賑わっていた。
最初のコメントを投稿しよう!