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落ちていく花びらは、階下の宴会を眩しく思う。並び立つこのできない世界は、まるで薄い膜が張られているようだ。
風が吹くたびに、花びらは階下へと降り注ぐ。
季節に代わる代わる咲き乱れる花の名を、すべて知っているものなどいない。だが、誰もが知る儚く美しい春の化身も存在していた。
笑いさざめく世界は、優しくほのかに甘い。漂う香りは淡くありながら、柔らかな艶を持つ。
はらりと揺れる扇子と、ひらりと泳ぐ色彩の海。
橙色と薄藍に染められた空に、白魚のような手が浮かび上がる。自らの宿り木へと客を呼び寄せ、その身一つで陶酔の世界へと旅立たせる術を彼女たちは持っているのだ。
風が吹いては、泳ぐように揺れ動く美しい衣の裾を目にすると、緑の衣を身につけた少女は走り出した。
「母さん、母さん。待って、お願い」
先へ先へと進んでしまう相手に、追いつくことは簡単ではない。薄桃の袿を翻して舞い踊る母が待つ人は、もう来ない。何年待とうと、来ることはないのだ。
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