散り逝く

4/7
前へ
/9ページ
次へ
「もうあの人達を待っても意味はないの。母さん、どうしてわからないの?」  声は相手に届かない。風と戯れる少女の母は、頬をほのかに染めて微笑む。愛すべき待ち人の影しか見えていないのだ。  風は躍りに誘われて、その強さを増幅させる。突風に煽られて、近付くことができない母の美しくも儚い最期の躍り。 「やめなんし」  少女がいる場所とは別の宿り木を守る女性の声が響く。 「……御衣黄(ぎょいこう)様」  名前を呼ばれた気品ある女性は、黄緑と黄色の重ねから見え隠れする爪紅が何よりも美しい。  御衣黄は華やかな赤い帯を揺らし、天の地位を捨てる少女の母に哀れみを向けた。 「慕うなら、戻りんせん」  感嘆の溜息も、周りの喧騒も、すべて少女には関係なかった。止んだ風と共に消え去った母の姿を見つけることができず、少女は呆然と立ち尽くす。 「行きんしょう」  若葉色の少女に、ふわりとかけられた袿は、淡い花と流線が美しい薄桃だ。その意味を知っている少女は肩を震わせた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加