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…side犬威 目の前に鼻歌交じりに皿を洗う狼谷くんを眺めながら貰ったチョコレートの包をひとつ解いて口へ運ぶ。 (あ、これすごい美味しい…どこのだろ…) 俺の喋り方に何も言わずに、それでいて何を言いたいのか分かってくれる彼は何者なんだろうか。 彼は本当に、あの報告にあったようなことをするような人なのだろうか。 背中をまじまじと見つめながら思いふけっていると、おもむろに彼が振り返る。 「チョコ無くなったんすか?」 背中に当てられる視線が、物乞いの視線に感じられたのだろうか。 少しおかしくって笑ってしまった。 「まだ、…」 『まだあるから大丈夫』そう言うつもりだったのに、『美味しいねこれ、どこで売ってるの?』そう繋げるつもりだったのに、 また詰まってしまった。 昔から人と話すのは苦手だった。 うまく言葉が紡げず、相手も気分が悪くなるようで顔を良く顰められた。 でも、彼は違った。 「残ってるんすか、よかった。あ、そうだ、それ気に入ったなら後でもう一つ買いに行きましょうか」 ニッと笑うと先ほど洗っていた皿を今度は拭いては食器棚に戻す。 なぜ、彼は俺のあの言葉だけで分かるのだろうか。 考えれば考えるほど ほのかにチョコレートとは違う甘い匂いを漂わせる彼が、 無性に食べたくなった。 (欲しい。) こんなにも強く、何かを欲しくなるのはいつぶりだろう。 (食べたいなぁ…。) 綺麗な首筋、細い腰、男らしい、とはいい難いが、細く骨ばった手首。 そして鋭く光る、目。 もう一回。 こっちを見つめてくれないかな…。 ……
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