38【勝木】推理

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「六年前の五月九日の晩…犯人は、ストーカーの男子大学生を刺殺して、見事、カタキ討ちを成し遂げたとします。 本来なら、そこで犯人の目的は、達成されるはずなのですが… しかし、それでもまだ犯人の気持ちは収まらなかった。 元は、と言えば、 警察が姉の生前にしてきたストーカーに関する相談をちゃんと聞いてやらずに、ストーカーを野放しにした事こそが、そもそもの事件の原因…。 警察が事前にちゃんとした対策を講じていれば、姉は死なずに済んだかもしれない…。 こうして、犯人の怒りの矛先(ほこさき)は、今度はストーカーに対してではなく、警察へと向けられて行く訳です。 しかし、 警察に怒りの矛先を向けたところで一体、次に何をすれば犯人の気持ちは収まるのと言うのでしょうか。 そこで犯人がとった行動は、まずネット上に『例のあの噂』を流して警察の信用を失墜させてやろうと画策した事でした。 先ほどお話した六年前の事件に関してネット上に流れた噂は、実は、ある掲示板サイトの一個人のカキコミが発端となっています。 そのカキコミをした人物こそが… 何を隠そう、犯人自身だったと、僕は思っています。 その根拠としましては、 姉が生前、ストーカー行為を受けていたという事実は、実は公式の場ではどこにも公表されていません。 姉のカタキ討ちを実際にした犯人…もしくは、姉と近しい人物しか知り得る事ができない情報なんです。 しかも、姉は生前、僕にストーカーの事を打ち明けた時、僕にその事を口止めしたんです。 『周囲の人達に心配をかけたくないから誰にも言わないでくれ』と…。 もし、姉が他の人にも、こっそりストーカーの事を打ち明けたとしても、同様に口止めをした事でしょう。 ですから、 ネットにカキコミをしてストーカーに関する噂を流した人物は、犯人の可能性が極めて高いと、僕は思うんです。 もはや、怒りの矛先が警察に向いてしまっている犯人にとっては、 姉に口止めされた事など、あまり気に留めていなかったと想像ができるからです」 と、 そこで勝木先輩は一度、言葉を切ると、少し間をおいて再び話し始めた。
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