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「六年前の五月九日の晩…犯人は、ストーカーの男子大学生を刺殺して、見事、カタキ討ちを成し遂げたとします。
本来なら、そこで犯人の目的は、達成されるはずなのですが…
しかし、それでもまだ犯人の気持ちは収まらなかった。
元は、と言えば、
警察が姉の生前にしてきたストーカーに関する相談をちゃんと聞いてやらずに、ストーカーを野放しにした事こそが、そもそもの事件の原因…。
警察が事前にちゃんとした対策を講じていれば、姉は死なずに済んだかもしれない…。
こうして、犯人の怒りの矛先(ほこさき)は、今度はストーカーに対してではなく、警察へと向けられて行く訳です。
しかし、
警察に怒りの矛先を向けたところで一体、次に何をすれば犯人の気持ちは収まるのと言うのでしょうか。
そこで犯人がとった行動は、まずネット上に『例のあの噂』を流して警察の信用を失墜させてやろうと画策した事でした。
先ほどお話した六年前の事件に関してネット上に流れた噂は、実は、ある掲示板サイトの一個人のカキコミが発端となっています。
そのカキコミをした人物こそが…
何を隠そう、犯人自身だったと、僕は思っています。
その根拠としましては、
姉が生前、ストーカー行為を受けていたという事実は、実は公式の場ではどこにも公表されていません。
姉のカタキ討ちを実際にした犯人…もしくは、姉と近しい人物しか知り得る事ができない情報なんです。
しかも、姉は生前、僕にストーカーの事を打ち明けた時、僕にその事を口止めしたんです。
『周囲の人達に心配をかけたくないから誰にも言わないでくれ』と…。
もし、姉が他の人にも、こっそりストーカーの事を打ち明けたとしても、同様に口止めをした事でしょう。
ですから、
ネットにカキコミをしてストーカーに関する噂を流した人物は、犯人の可能性が極めて高いと、僕は思うんです。
もはや、怒りの矛先が警察に向いてしまっている犯人にとっては、
姉に口止めされた事など、あまり気に留めていなかったと想像ができるからです」
と、
そこで勝木先輩は一度、言葉を切ると、少し間をおいて再び話し始めた。
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