121人が本棚に入れています
本棚に追加
しばしの間、
沈黙が流れた……。
「あの時は…」
と、倉木青年が沈黙を破って口を開いた。
「俺は…
被害者の明美さんの友人だからって理由で、捜査から外されちまって…」
そう。
警察官や刑事の友人や家族が事件の被害者だった場合、
私的感情で間違った捜査をされるのを防ぐため、その警察官や刑事は捜査担当から外される。
と、言う話を進也も、どこかで聞いた事が有った。
「だから…」
と、倉木青年が言葉を続けた。
「あくまでも個人的に、あの事件を追っているんだが、六年経った今も犯人を見付ける事ができなくて、本当に…ごめん!!」
と、今度は倉木青年の方が勝木先輩に頭を下げた。
「や、やめて下さいよ。倉木さんが謝る事は、全然無いです」
と、勝木先輩は口を開いた。
そして、
「それで…
先ほど、その犯人かもしれない男の写真が撮れたんで、
倉木さんにも見てもらおうと思って、この交番に来て頂いたんですよ」
「あ…そうだったね。是非とも、俺にも見せてくれ」
と、倉木青年は頭を上げて言った。
「…と…
その前にですね…」
と、勝木先輩が引き続き口を開いた。
「実は、僕は、犯人について『ある推論』を立てました。
もちろん、シロウトが考えた一推論に過ぎませんが…
それをまずは、聞いて頂いてもよろしいでしょうか」
「…え?君の推論?」
と、今度は倉木青年が口を開いた。
「はい…。
ちなみにこの僕が考えた推論は、先ほど港警部さんに電話で一通り聞いて頂いてます」
勝木先輩のその言葉で、
一同の視線が一斉に港警部の方に向いた。
当の港警部は『こほん』と、一つ咳ばらいをすると、
「うむ。なかなか筋道が通った推論だよ。倉木君も聞いてみると良い」
と、少し掠れ気味の声で言った。
「分かりました。
よし!勝木君。まずは、君のその『推論』とやらを聞いてみようじゃないか。是非、聞かせてくれ」
倉木青年は、勝木先輩に向き直った。
「はい。分かりました。ありがとうございます。
あ、皆さん。どうぞ、お座り下さい」
その勝木先輩の言葉を合図にするかの様に、
一同は皆それぞれ手近のパイプ椅子にと腰を下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!