38【勝木】推理

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しばしの間、 沈黙が流れた……。 「あの時は…」 と、倉木青年が沈黙を破って口を開いた。 「俺は… 被害者の明美さんの友人だからって理由で、捜査から外されちまって…」 そう。 警察官や刑事の友人や家族が事件の被害者だった場合、 私的感情で間違った捜査をされるのを防ぐため、その警察官や刑事は捜査担当から外される。 と、言う話を進也も、どこかで聞いた事が有った。 「だから…」 と、倉木青年が言葉を続けた。 「あくまでも個人的に、あの事件を追っているんだが、六年経った今も犯人を見付ける事ができなくて、本当に…ごめん!!」 と、今度は倉木青年の方が勝木先輩に頭を下げた。 「や、やめて下さいよ。倉木さんが謝る事は、全然無いです」 と、勝木先輩は口を開いた。 そして、 「それで… 先ほど、その犯人かもしれない男の写真が撮れたんで、 倉木さんにも見てもらおうと思って、この交番に来て頂いたんですよ」 「あ…そうだったね。是非とも、俺にも見せてくれ」 と、倉木青年は頭を上げて言った。 「…と… その前にですね…」 と、勝木先輩が引き続き口を開いた。 「実は、僕は、犯人について『ある推論』を立てました。 もちろん、シロウトが考えた一推論に過ぎませんが… それをまずは、聞いて頂いてもよろしいでしょうか」 「…え?君の推論?」 と、今度は倉木青年が口を開いた。 「はい…。 ちなみにこの僕が考えた推論は、先ほど港警部さんに電話で一通り聞いて頂いてます」 勝木先輩のその言葉で、 一同の視線が一斉に港警部の方に向いた。 当の港警部は『こほん』と、一つ咳ばらいをすると、 「うむ。なかなか筋道が通った推論だよ。倉木君も聞いてみると良い」 と、少し掠れ気味の声で言った。 「分かりました。 よし!勝木君。まずは、君のその『推論』とやらを聞いてみようじゃないか。是非、聞かせてくれ」 倉木青年は、勝木先輩に向き直った。 「はい。分かりました。ありがとうございます。 あ、皆さん。どうぞ、お座り下さい」 その勝木先輩の言葉を合図にするかの様に、 一同は皆それぞれ手近のパイプ椅子にと腰を下ろした。
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