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二章 帰り道
四階にある教室から、中央にある階段を降りる。西側にも階段はあるが、下駄箱で外靴に履き替えるのには中央階段から降りる方が近いのだ。階段を下りるたびに着地音が広い校舎に音を響かせる。
校舎に残っている生徒などいないのだろう、下駄箱の置いてある中央玄関につくまで一人の学生にもすれ違わなかった。
下駄箱についた僕はいそいそと靴を履き替え、校舎から少し離れた所にある別館を目指した。そこの一階が柔道場になっている。
まだ大吾は柔道場にいるだろうか。
大吾が迎えに来てからかなりの時間が経過していた。
夏が近いのか、夕方になるというのに太陽はまだ西の空にあがっていた。それでもオレンジの光を最後の輝きを絞り出すように空に反射させている。夕暮れにせかされるように柔道場についた僕は恐る恐る道場の扉を開いた。
「よお、遅かったな。」
もう部活は終わってしまったのだろう。大吾以外誰一人として別館には残っていなかった。その大吾もすでに制服に着替え終えている。
広い道場の中にたった一人でいる姿は、なんとなくもの寂しくて・・・。
「遅れてごめん。」
申し訳なくて、僕は頭を下げた。約束したことを守れないのは最低だと僕は思っていた。思っていたのに、僕は約束を破ってしまったのだ。どんな小さい事でもそれだけはしたくなかったのに。これじゃああいつと同じになってしまう。
「何言ってるんだ。昌平はちゃんとここに来てくれたじゃないか。」
そう言って、振り返った大吾の顔には迎えに来た時までは無かったアザが浮かんでいた。
「大吾、その顔どうしたんだ。」
あっけにとられて、思わず声が大きくなる。
「これか。練習中にちょっとな。受け身をとれなくて、そのまま床にぶつかったんだ。」
本当にそうだろうか。僕の不安をよそに、大吾は帰ろうぜと普段通りの声音で言った。待てよと僕が追いかけたがすたすたと歩いて行ってしまう。
柔道場から出て行った大吾を駆け足で僕は追いかけた。僕はそれ以上何も聞かずに大吾の隣を歩いていく。
街灯の明かりが一つ、また一つと点灯していった。それを追いかけるように、空の星もその姿を見せ始める。
「星綺麗だな。」
僕は思わず呟いた。
「なんだよそれ、いつも見てるだろ。」
僕の呟きに、大吾が呆れた声をあげる。
「今日のは格別綺麗じゃない?」
そう言って僕はまた空を見上げた。
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