二章 帰り道

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 帰り道に大吾と見る空はいつも綺麗だった。なんというか、そう安心できるのだろう。  気があると思うんだけどなぁ。愛城さんとの教室でのやり取りが不意に脳裏によみがえった。安心という感情は友人にいだく感情なのだろうか。ふと、隣を歩く大吾の横顔をじっと見つめた。  「そういや、委員会の仕事は終わったのか?」 同じタイミングでこちらを向かれ、大吾と目があってしまった。  「ん。何か付いているのか。」  大吾が不思議そうに僕に尋ねた。愛城さんのせいで妙に大吾を意識してしまっていた。両の手を頬に持っていくと顔が火照っているのがわかる。  「仕事はなんとか終わったよ。」  つとめて平静に僕は答えた。  「それにしても、あんなに長い時間待たされるとはなぁ。」  少し攻めるような口調で大吾が言った。すっと、手が伸びて少し熱を帯びた僕の頬をひっぱる。  「おめんあさい。」  僕は謝るが、どうすっかなぁっと大吾は頬から手を放してくれない。  「よし、許してやろう。」  しばらくして満足したのか、ようやく大吾が手を放してくれた。少し痛かったけど、ようやくいつもの調子を取り戻した大吾に、僕は胸をなでおろした。やっぱり大吾は元気がある方がいい。  「なんだよ、にやにやして。」  大吾がまた僕の顔を見て不思議そうに言う。  「なんでもないよ。あ、僕ここだから、大吾また明日な。」  また明日、背中にかかる声はいつもの大吾の声だった。  「ただいま。」  僕は誰にも聞こえないように、ぽつりと呟いた。  2DKのアパートに母と僕は二人で暮らしている。真っ暗な玄関の電気をつけると、それに気がついたかのように部屋から母親が出て来た。  「あんたこんな時間まで何してんの。」  母の最初の一言はいつも文句だった。40になったばかりだというに、実年齢以上の老いを感じる母の目は僕の目を見てはいない。  「委員会があって遅れた。」  学校の友人が聞いたらどう思うだろう。自分のあまりに冷たい声に僕は俯いた。  いつの頃からだろう、母との会話が苦痛と感じるようになったのは。母から逃げるようにして自分の部屋に移動した僕は制服のままベットにそのままつっぷした。学校が恋しい。あそこには自分を対等にあつかってくれる友人がいる。  「大吾、大丈夫かなぁ。」  まどろみながら、僕はふとそんな事を思った。
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