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三章 いじめ
やはりというべきか、大吾の作ったアザはひどいもののようで、翌日になっても腫れがひくことはなかった。もちろん普段から威圧感のある大吾をからかうものなどいるはずもなく、大吾が教室に入ると重苦しい空気が室内に充満した。
「あはは、誰にやられたのその顔。」
ただ一人。大吾の幼馴染である愛城さんだけは、大吾のふくれた顔を見て笑い声をあげた。
僕があちゃあと顔を手で押さえる中、それがきっかけとなり教室中に笑い声が伝染していく。
「うるせえぞ、てめえら。」
大吾が腫れた顔をさらに赤くして怒鳴り声をあげるが、クラスメイトの笑い声を大きくするだけだった。
「まあまあ、落ち着いて。」
腹筋に力を入れ、笑いだしそうになる顔を押さえながら僕は大吾を宥める。
「今の顔でキレても怖くないわよ。」
愛城さんの挑発で、大吾がますます顔を赤くした。怒っているというよりもむしろ恥ずかしいのかもしれない。
それにさ、ふと愛城さんが真剣な顔になって大吾を見つめた。
「いつも、ピリピリしていたら友人なんてできないでしょ。大吾、昌平君以外まともにしゃべれるやつはいないんじゃないの?」
愛城さんの指摘に、大吾は思わずたじろいだ。そう言えば、大吾が僕達意外と話しているところを見た事が無い。
「愛城さんって、大吾のこと良く見てるんだね。」
僕は素直に感心したが、大吾は納得できずに唸り声をあげている。愛城さんはというと、そんな大吾を見て何やら不思議な表情をしていた。
僕がその表情の意味を考えていた時、教室の扉ががらっと開いた。
「お~し、SHR始めるぞ。お、なんだ大吾、顔がゆでダコみたいになってるぞ。」
教室にやってきた担任の言葉でクラスがまたどっとわいた。
「それにしても面白かったなぁ。」
今日の朝の出来事を思い出して愛城さんが、クスクスと笑い声をたてる。
「あんまり大吾をいじめないでやってよ、愛城さん。」
僕がたしなめるが、一向に忍び笑いは止まらない。
時刻は昼、僕達は屋上に来ていた。
じゃんけんで運悪く負けた大吾は、購買に3人分のパンを買いに行かされている。その間僕は愛城さんと他愛の無い話をしていた。
「そういえば、昌平君は大吾のけがの理由しってるの?」
笑いで出た涙を拭きながら、愛城さんが僕に尋ねた。
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