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「いや、大吾は柔道の練習でけがをしたって言ってるけど、あれってやっぱり・・・。」
「殴られたあと?」
愛城さんもそう思う?と聞くと当然と愛城さんは頷いた。
「私も小さい頃にあいつと同じ道場通ってたからね。ケガを見ればそれが柔道の練習でできたものかどうかはわかるわよ。」
やれやれと、愛城さんは大きな溜息をついた。
「男の子ってさ、大変だよね。なんていうんだろう。私達と違って他人によりかかれないじゃない。もうちょっと弱さを見してくれてもいいのにね。」
そう言う愛城さんの顔は優しげだった。そしてそれと同じくらい寂しげだった。幼馴染である愛城さんは、たくましいけど危なげな大吾の事をずっとみてきたのだろう。それこそ一カ月しか付き合いの無い僕なんかよりは、大吾の事を 知っているに違いない。
「僕は待つ事にするよ。」
僕の言葉に、愛城さんは一瞬きょとんと目をしばたかせた。
「そっかぁ、勝てないわけだ。」
何やら納得したようにうなずく愛城さんに僕は首をかしげる。
パリーンッ。
突然階下で何かが割れる音がした。
「昌平君。」
愛城さんの声など耳に入らず、屋上からダッシュで階段を下りる。
嫌な予感がした。西階段を下りると、野球部が使っている大きなグラウンドに出る。そのグラウンドと校舎の間に見知った人物がいた。
「大吾、大丈夫か。」
そこにいたのは、頭から血を流した大吾だった。大吾だけじゃない、その周りを取り囲むように幾人もの生徒が立っている。
「何をしているんですか先輩?」
真っ白になりそうな頭を理性で染め上げ、ようやくその言葉だけ僕は口にした。
「なんだよおまえ、一年坊が調子のんなよ。」
僕が彼らを先輩だとわかったように、むこうもネクタイの色で僕が一年だとわかったのか声をあらげて威嚇してくる。それでも僕が先輩達を睨みつけると、その中の一人が大吾を殴ったものと同じ血のついたバットで殴りかかってきた。
リーチの長い獲物は懐に入られると弱い。かつて教えられた教えのように臆することなく踏み込み、バットを持つ腕を左手でひっぱり右肘を腹に埋める。
腹を肘でうたれた先輩が力無く倒れた。一瞬の出来きごとに他の先輩達がひるむ。
「先生、大吾君が先輩に襲われています。」
恐怖のあまり残りの生徒が僕に殴りかかろうとした刹那。背後で愛城さんが叫ぶのが聞こえた。
「やべ、逃げろ。」
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