第二章 戦火の香

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第二章 戦火の香

 魔法の呪文を唱える声が屋外から学びの塔へと響き渡る。  グラウンドでは3人の少年少女が、ウェルナーの指示に従って、空に向かって赤、青、黄色の魔法の矢を打ち上げていた。そのたびに視界の中に色とりどりの魔法が入り混じり、花火のように空を彩っていく。アレックスの眼前には昨日を彷彿とさせる幻想的な光景が広がっていた。  その光景を作っているのは、遊びでは無く授業を行っている3人の見習いである。初級魔法の照明の魔法を完璧に習得し、今日は攻撃魔法である魔法の矢の練習をしているようだ。自衛の手段をすぐに覚えさせようとするウェルナーに、宗教戦争の影が見える。今なお魔法使いの地位が低いことをあの青年は知っているのだ。  悪戦苦闘をしながらもウェルナーの教えのもと、3人の見習いは魔法使いとしてめきめきと上達しているように思えた。若いながら人に物を教える才能があるのだろう。習うより慣れろで他の成人した聖騎士に混じり、少年時代を過ごしてきたアレックスにとってみれば、こういった優しく教えてくれる先生というのは羨ましかった。  宗教戦争の真っ只そんな珍しい話でも無いだろう。  狩られていた魔法使いに比べれば、対したことの無い話だ。  戦争の巻き添えで両親や兄弟を失い、孤児院で育てられたアレックスは、ただ闇雲に強さを求めていた。強さとは何かを考える間もなく、戦争という武力に負けない力を得るために当時の自分は必死だった。  次は大切なものを護れるように。ただそれだけのために、我武者羅に努力を続けていた。  第9階位という最高の地位につけたのも、恐らくその努力があったからだろう。  力を得たのはいいが、振り返れば自分には守りたいものがいなかった。  無骨で、周りを気にしない。規律を重んじるだけの人間。  そんな人間を誰が好きになるというのだろうか。  この塔についたばかりの時、話しかけた魔法使いが恐怖に顔を歪ますのを見て、それに気づかされた。今までは、聖騎士団長の養子だということで、周りが大なり小なり遠慮してくれていたのだ。  ウェルナーに始めて話しかけるまでに、十人以上の魔法使いに逃げられた。  少しショックだった。  顔を豆だらけの手でほぐし、優しい声音を心がける。  何度も、何度も。魔法使いたちに声をかけ続けた。
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