Ⅱ-Ⅱ

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乱暴に円卓がばんと叩かれ振動がこちらにまで伝わってきた。アリス教授などは自分が怒られているわけでは無いのに涙目になっている。  「何もミスなどしていませんよ。あくまで塔を防衛し全員が生存する可能性を述べたまでです。もちろん犠牲や囮をだしていいというのなら、15%にまで防衛の成功率があがりますが。さすがにそんな戦略はとりたくないでしょう?」  ぎろりと歴戦の魔法使いに睨まれチャールズ教授はイェシカ教授から目をそらした。  ヘヴィングが自分が学生の時にしてくれた話によると、彼はブラッディー湾防衛戦で一緒に戦った魔法使いだそうだ。ヘヴィングと同じほど年をとってはいるものの、温和な彼とは違い凄みのようなものを時々感じさせる。チャールズ教授は自分よりも10歳ほど年上なだけなので、イェシカ教授から見れば小童の戯言に聞こえるのかもしれない。  「ほらみなさい、私達は戻ってくるべきではない。」  教養学2年のシャーク教授がイェシカ教授の意見を聞き嬉々として語り始める。この教授は先ほどから露骨に塔から逃げるように他の教授を誘導していた。それがとても気に入らない。  しかしフラウのことを問い詰めようにも証拠が無かった。  見習いの目撃証言だけでは現状捜査はできないだろう。アレックスは教皇に嘆願書を出したそうだが、どうやら間に合いそうにない。  ただそれは協会に所属している聖騎士が捜査をする場合だけだ。  塔の全ての権限は主であるヘヴィングに委ねられている。塔の主ならこの塔の魔法使いの自室を相手の許可無く調べることができた。とは言え見習いから得た目撃情報はまだヘヴィングには報告していない。魔法使いを疑うのは嫌だったし、いらぬ混乱を招きたくなかったから。  ウェルナーの思考を遮り、意見がでつくした所でヘヴィングが手をあげた。  その皺だらけの手を見てウェルナーは悲しくなった。初めて会った時よりも随分と老いているような気がしたからだ。きっと自分が知らない所で無茶をしていたに違いない。魔法使いの人権を取り戻すために彼は今も戦っているのだ。  あれだけ白熱した討論が嘘のように大広間が静寂にみたされた。  全員の注意が老魔術師に向けられる。
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