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乾ききっていた心に染み渡る何かをウェルナーは持っていた。それは、我武者羅に後ろを振り返らず進んできた幼少期のつまらない思い出など、吹き飛ばしてくれるもののように思えた。
あの少年といれば、自分の心の隙間を埋められるだろうか。
次から次へとあふれてくるアレックスの疑問に、眺めている空は答えてくれなかった。どんよりとした黒い雲が流れているのが見える。鳥が南から北へ向けて何度も羽ばたいていった。
あの時と一緒だ。なんだか嫌な予感がした。
「こんな所で何をやっている、アレックス。」
不意に髭面の男が視界に入ってきた。
何時この”学びの塔”にやってきたのだろう。久方ぶりに義父の顔を見た。
相変わらず強面の男である。リベラルの聖騎士団長をするには相応しい威厳だとは思うが、普通に歩いていてもすれ違う子供達は泣き出すに違いない。動物に例えるなら熊のようだ。
大柄な体にあったのんびりとした動作で、仰向けに寝ているアレックスの隣に腰を降ろすと、”学びの塔”の購買で買ったソフトクリームをぺろぺろと舐め始めた。そのアンバランスな光景に呆れながら、アレックスは上半身だけ体を起した。
宗教戦争で親を無くしたアレックスを、ここまで育ててくれた義父は、アレックスの憧れであり師でもある。ミルド大陸に3人しかいない第9階位の聖騎士、アーノルド・リード。成りたての自分はともかく、多忙なその聖騎士がいったい何のようでここまできたのだろうか。
「おまえが適当に任務をしているなんて珍しい。悩み事か。話せることなら相談に乗るが・・・。」
養子ということと、普段多忙であまり顔を合わせないこともあり、義父は自分との距離感をつかめていないようだった。父親らしく振舞うことに照れつつも、自分を心配してくれているのがわかる。
「なあ、親父。恋ってなんだろうな。」
アレックスの言葉が想定外だったのか、持っていたソフトクリームを義父が落とした。
「こ・・・恋わずらいか、アレックス。おまえがなぁ。誰とだ門番のミーシャちゃんか。それとも本国の修道士エナメルちゃんか。いやぁ、まったく隅に置けないな。」
ばしばしと嬉しそうにものすごい勢いで背中を叩く義父に対し、アレックスはグラウンドで講義をしている教授を指でさした。
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