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「いや、あいつなんだけど。」
義父の笑顔が固まる。ミルド大陸では同姓での結婚は普通に行われているが、まさか相手が魔法使いだと思わなかったのだろう。
「そうか~、相手は魔法使いか。いやぁ、ますます俺に似てきたな・・・。」
「ん?聞き取れなかった。もう一度言ってくれ。」
「い・・・いや何でもない。それにしても、あの子は監視対象じゃないか。情がうつったのか。」
「そこがわからない。俺はあいつに同情しただけなのか。本当に好きになったのか。相手を好きになるってどんな感情なんだ?」
「そうだなぁ。わしもあまり経験が多いほうでは無いが。相手のことを自分以上に気にかけたりする時とか、下世話な話、やりてえとか思ったときに・・・ああ、好きなんだって思うんじゃねえか。」
「そういうもんか。」
「もっとわかりやすく言えば、そうだな。あの子と一緒にいるのは楽しいか。」
「楽しい。」
義父の質問にアレックスは間髪をいれずに答えた。それを聞いたアーノルドは嬉しそうに青年の頭を叩く。
「初めてじゃないか。おまえが楽しめているのは・・・。拾ったのはいいが、子育てなんてしたことが無い俺は、思えばおまえに無理をかけていたのかもしれない。」
「・・・そんなことは無い。俺は親父のことを尊敬している。」
「頭で考えるだけじゃない心で感じろ。おまえが何をしたいのか、それが一番大切なことだ。」
「どういう意味だ?」
「いつかわかる日が来るだろう。良くも悪くも結果として気づかされる。そうなった時では、取り返しはつかない。過去は戻らんからな。まあ、悩め若人よ。」
がっはっはと大声で豪快に笑う義父が、ふと塔の頂上を見上げた。
12層付近の窓辺に誰か人のいた気配がする。こちらを見ていたのだろうか。視線を義父にもどすと、一瞬とても寂しそうな表情で塔を見上げていたのが見えた。
豪快で弱音など吐いたことの無い義父の、知らない一面を見てアレックスは困惑した。アレックスが自分を見ていることに気がついたアーノルドはまた笑い、寂しげな表情を隠す。
「さて、わしがここに来た理由をまだ話して無かったな。グレイグ男爵がレナード男爵に宣戦布告をした。ある意味予想通りではあるが、時期が早い。」
思いがけない言葉に、アレックスの頭の中から、先ほどの義父の表情が吹き飛んだ。
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