Ⅱ-Ⅱ

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 他の教授には口が裂けても言わないが、新魔派の教皇は自分を恐れている節があることをウェルナーは知っていた。保護という名目で彼らを囲い、自分への人質にでも使うつもりなのだろう。いやはや、まったくもって効果的な方法だ。彼らが教皇領に保護されれば、たとえ塔の中の聖騎士が不在でも自分は大人しくしているしかない。  自分をさげずむ人間はどうでもいいが、子供たちのことをウェルナーは本気で大切に思っていた。特に3人の教え子達はまだ魔法について覚えたてで、ウェルナーとしても教授たちについていて欲しかった。  塔に保護された魔法使いの中には、両親のいない魔法使いも多い。  聖魔協定により魔法使いは塔で勉学を納めなければ外の世界へ出ることを禁ずるという決まりもある。戦争だからといって親元に帰すことはできないのだ。それに宗教戦争から数年たったとはいえ、外の世界が安全ともいえないだろう。やはり生徒達の安全を護ることが、教師の務めだとも思う。  「歴史的価値から、私も残るべきだと思います。」  考古学を教えている4年のエイミー先生がまたそれに反対する。青色のローブを着た眼鏡をかけた痩せ男は、人の命よりもこの塔の方が価値があると言いたいようだった。  「私の計算によると・・・。戦力に塔の主を入れ、防衛機構を使い、拠点防衛をとったとしても、千人の軍勢相手をたった6人ですれば勝率は5%以下と出ています。」  6年の魔術の計略、指揮を教えているイェシカ先生が論理的な数値を述べ円卓が静まりかえる。まさかそこまで絶望的な数値だとは思ってもいなかったのだろう。こちらには賢者の称号を持つ塔の主もいる。それなのにもかかわらずだ。  その戦力に僕は入っていないんですね。というつっこみを入れたかったがそういう状況では無いので、相も変わらずウェルナーは椅子の上で沈黙を保っていた。教授としての任期の短いウェルナーなど戦力に入っていないと思っているのだろう。恐れられているというのに、戦力になっていないというのは矛盾している。  「5%・・・だと・・・。イェシカ教授。他のごぼうの様な魔法使いはともかく、さすがに自分の力は計算ミスしていませんかね。」  チャールズ教授が鼻息を荒くしてイェシカ教授に講義する。
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