天使の憂鬱

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「……あいつは、誰とも勝負してなかったからだよ。 戦っているとしたら、自分自身だった」 レオンはそこまで言って、 『ハナから相手にされてないんだ。敵うわけねぇよな』 と、独白して、遠くを見るような目を見せる。 「……レオン」 「まあ、その後、お前の伯父やじーさんに会ったりして、菅野家の皆がそうだってことも分かった。 それから、俺も誰かと勝負をするのをやめて、戦うのは『今までの自分』とだけにしたんだ」 そう言って、少し優しい笑みを浮かべた。 その言葉は、桜の中にくすぶっていた、もやもやを吹き飛ばす風のようだった。 そうだ、誰かに張り合ったり、勝ちたいとかじゃない。 自分自身、少し前の自分よりも魅力的になることをがんばれば良いんだ。 そうすることで、自分だけの美しさと輝きを得ることができるのだろう。 「……ありがとう、レオン」 桜が微笑んでそう言うと、 「どうして礼を言われるのか、分からないな」 レオンは静かにそう言って、桜に背を向けた。 その側で、 「照れてる、レオン様が照れてる!」 と、りおが悶絶するかのように、拳を握り締めていた。
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