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「こ、恋バナって、恋の話だよね」
狼狽えるパリスに、「もちろんそうよ」と桜は頷く。
「菜摘との出会いは、聞いたことあるよね?」
「せっかく二人なんですもの、菜摘さんと出会う前の、おじさまの恋の話を聞きたいな」
うふっ、と手を合わせる桜に、パリスは「え、ええ?」と上体を少しそらせる。
「あのシンくんですら、なかなかの遍歴を重ねたくらいだもの、おじさまはきっとすごかったんじゃないかとずっと思っていて」
「い、いや、桜、僕は期待に応えるようなことは何も……。それなら樹利の話を聞いた方が……」
「樹利さんの遍歴はなんとなく想像がつくからいいの。
私は、品行方正なおじさまの恋の歴史を知りたい」
「そ、そんな歴史、僕には……」
「あら、でも、菜摘さんがはじめての彼女というわけではないんですよね?」
ずいっ、と身を乗り出す桜に、パリスはゲホゲホとむせて、
「……む、昔のことだから、ワスレチャッタ」
と、樹利がかつてよく使っていた言葉を告げて、目をそらした。
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