天使の憂鬱

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「あら、おじさまが樹利さんみたいなことを言って逃げるなんて」 残念そうに肩をすくめる桜に、パリスは弱り切ったように額に手を当て、 背後で話を聞いている側近たちは笑いを堪えていた。 まっすぐに見詰める桜の黒々とした瞳を前に、パリスは観念したように息をつく。 「……菜摘と出会う前にした恋はね、長くは続かなかったんだ」 「どうして?」 「その子は香港の子でね。 僕はその子に、自分が黄家の人間……黄華龍だってことを黙っていたんだ。菅野パリスとしての自分しか見せなかった。色眼鏡で見られたくなくてね。でもすぐバレちゃって」 「そ、それで?」 「彼女が目に見えて変わってしまったんだ」 「どうして変わってしまうの? だって、黄華龍でも菅野パリスでも、おじさまはおじさまなのに」 「……そうだよね、僕もそう思う。 ううん、違うな。そう思えなかったから、僕も隠していたんだ。 家がどうであれ、僕は僕なんだけど、そう見ない人が多すぎて、当時の僕は頑なになってしまっていてね」 力なく笑うパリスに、桜は言葉を詰まらせた。
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