天使の憂鬱

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「えっ、このまま、パーティの会場に?」 自分のシンプルなワンピースを見ながら、せっかくドレスを持ってきたのに、と懸念する桜に、パリスは小さく首を振った。 「ううん、ちゃんと部屋を確保してるよ。 パーティまで時間があるし、お茶を飲んでゆっくりして、着替えてからホールに行こう」 「わあ、良かった」 桜は弾むようにして、パリスの腕にしがみつく。 ロビーに入ると、それは高い天井に煌びやかなシャンデリアが目に入る。 たしか、百年の歴史を持つシャンデリアなのよね。可愛さんがこのシャンデリアに圧倒されたって話してくれた。 桜は、天井を見上げて、熱い息をつく。 樹利と可愛が若い頃の話が楽しく、今まで何度もせがんで聞かせてもらっていた。 NYでの生活、横浜に戻ってきて、フィレンツェに行った時のこと。 二人が横浜で店を始めて、ニュートンが来て、パリスが家族になったこと。 桜はそれらの話を聞きながら、いつもうっとりと思い浮かべていた。 そして今、自分がその話の舞台となった場所に来ていることが、信じられずふわふわと浮足立った気持ちだ。 可愛さんは、ここで樹利さんという王子様と再会したんだ。 今の私の隣にいるのは……素敵な人だけど、あくまで伯父だ。 桜はちらりとパリスを見上げて、はーっ、と息をつき、 「さ、桜、どうかしたのかい?」 パリスが慌てたように尋ねた。
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