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あの日…私が2年生になったばかりの頃だった。隣
のクラスの担任だった白石先生を、帰りの電車で偶
然見かけた。その時の先生の様子がいつもと違って
いるのは一目瞭然だった。いつもの凛とした表情と
は違って、必死に何かに耐えているような、そんな
表情だった。原因はすぐに分かった。後ろに立って
いるおじさんの手が、先生のお尻に伸びていたから
。駅に停まると、私は先生の手を掴んで走った。電
車を出ると、一目散に女子トイレへ駆け込んだ。こ
こまで来れば安心だろう。
「先生、大丈夫ですか?」
怒られはしないだろうかと、内心冷や冷やしながら
様子を伺う。先生は顔を挙げないまま、その場に座
り込んでしまった。しゃがんで顔を覗き込もうとす
ると、突然先生に抱きしめられた。
「えっ、あの、先生っ」
突然のことに驚いて、咄嗟に離れようとすると、さ
らに強く抱きしめられた。
「ダメっ、見ないで!」
どうやら泣き顔を見られたくないらしい。
「大丈夫ですよ、見ないし誰にも言いません。怖かった、ですよね…でももう大丈夫ですから。」
「うん…」
先生の体から力が抜けて、しばらくして控えめな嗚
咽が聞こえてきた。私は先生が落ち着くまで、優し
くその背中を撫でていた。少しして、先生は落ち着
いたのかゆっくりと私から離れた。
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