第1章

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 それを見て、教室の空気がざわつく。  僕は思わず、初めて会ったときの彼女の姿を思い出した。  傷だらけの顔と身体。  一つの疑惑が頭の中に浮かぶ。    とりあえず好きなところに座れと言われたので、彼女は今日はたまたま欠席なだけで空いているわけではない、僕の前の席に腰かけた。  先生何も言わないのかよ。  学校来たらめちゃくちゃびっくりするだろうな、前の人。  新手のいじめの可能性を考えるかもしれない。 「お久しぶりです。近江さん」 「久しぶり……」  いきなり転入してきた事とか、勝手に前の席に座っている事とか、顔に貼ってあるでかい絆創膏の事とか、気になる点が多すぎて僕の頭はややオーバーヒートを起こしていた。  継ぐべき言葉が見つからない。  ……いや、そういえば言わなくちゃいけないことがあったんだった。 「あのさ、ワンピース忘れていったでしょ。まだ家にあるんだけど、今度持ってくるよ」 「いいえ、それには及びません。取りに伺います。今日は平気ですか?」  律儀だなあ。常に敬語口調なところといい、あんまり女子高生っぽくないなこの人。 「うん、平気。じゃあ放課後に」  そう約束して、僕は授業に向かった。
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